片付けのコツは「いる・いらない」の二択ではない−−読書がはかどる本の収納術

本棚に本がビッシリ詰まっていて、取り出しにくい。最近読んでいない本が、ホコリをかぶっている……。

ずらりと並んだ蔵書に憧れを持つ方も多い一方で、棚に並べて満足してしまっていては、肝心の読書は捗りません。積読が多いと感じる方はぜひ、この機会に本棚を整理してみましょう。


コンプレックスを想起させる書籍に注意

(C)丹野雄二

本の背表紙は文字+色の情報が目に残りやすく、何気なく部屋においているだけでも、潜在意識に残りやすいもの。苦手意識の強い分野の本を、何冊も購入している場合は注意が必要です。

例えば、TOEFLの勉強を始めたものの挫折し、家に英語教材を大量に溜め込んでいる場合。「これを捨ててしまえば、英語が身につかなくなる」「簡単に諦めてしまう自分が許せない」という恐怖心で処分できなくなっている可能性が高いです。そういった本の所有は、スペースの無駄になるだけでなく、表紙が目に入ることで、自己嫌悪を招いてしまいます。テレワークの集中力や、自宅でのくつろぎも、邪魔されてしまうのです。

参考書・ビジネス書などは、フリマアプリなどでの二次流通が盛んで、売却も買い戻しも非常に簡単です。私の場合、統計学が苦手分野なのですが、「必要になったらまた買おう」の精神で、同じ教科書をフリマアプリで何度も売り買いしています。売買のタイミングによっては、買った時より高く売れることもあり、家でコンプレックスを抱えながら保管するよりも健全な関係を保つことができています。

「いる・いらない」の二軸で分けない

(C)丹野雄二

片付けの基本は「全部出し」。本棚を整理する場合も、棚に入れたまま精査をするのではなく、全ての本を一度すべて出して、机の上や床に並べて精査をしましょう。

精査の軸として、「いる・いらない」で判断せず、「直近でいつ手にとったか」「すでに読み終わっているか」など、実際の使用実績にしたがって分類をしていきましょう。日用品や洋服以上に、本は所有の理由が多岐に渡ります。「読み終わったが人に貸したい」「読むと思って買ったが、時間がなくて読めていない」「資格試験に合格するまで捨てられない」など、本を持っている理由ごとに、細かく分類をしていきましょう。

たとえ1冊も捨てられなかったとしても、蔵書の価値と向き合い、並べ替えるだけでも読書が捗るきっかけとなります。「たくさん捨てなくては」とプレッシャーに感じず、興味関心の棚卸しとして、定期的に行いましょう。流行りに乗って買ったビジネス書や、関心が薄くなった参考書類など、迷ったらとりあえずフリマアプリに出品したり、リサイクル店に持ち込んでみて、納得いく価格で売れたら手放すというのも一手ですね。

本“棚”という形状にこだわる必要はない

(C)丹野雄二

ヘンリー・ペトロスキー著『本棚の歴史』(白水社)によると、本は古来「鎖で縛る」「読 書台に紐でつなぐ」「保管箱に密閉する」など、さまざまな保管方法が取られていましたが、 中世の印刷産業の発展とともに、現在のような本棚で保管されるようになったそうです。家庭用の本棚が普及した背景として、「本棚の形状で個人が本を保管することで、棚を埋めたいという心理が働き、本の販売が促進される」という、書籍販売者側の販促戦略があったとのこと。

たしかに書店や図書館で本を選ぶ時や、来客に自分の本のコレクションを見せるには、背表紙がずらっと並んだ棚形式は便利です。しかし、本棚は日本の住宅に置くには背丈の高い家具であり、居住スペース内にありながら、普段触るのは棚スペースのせいぜい数パーセント程度。大型の家具を並べる余裕のある広い家ならまだしも、居住スペースが限られる日本の住居において、本棚は使用頻度のそれほど高くないモノを、「全品ディスプレイ」で収納するという、かなり贅沢な保管方法なのです。

また震災時などには倒壊しやすく、本棚の下敷きにならないように就寝スペースを制限してしまいます。本の上には埃が溜まりやすく、高い段にある本ほど部屋の蛍光灯を直接浴びるので、紙は少しずつ劣化していきます。

本を大切にしたいのなら、本棚にギュウギュウに詰め込むのではなく、「適切な箇所に分散配置+すぐ読まない本は蓋付きの箱に保管」の組み合わせがおすすめです。しばらく手に取らない本は、押し入れのサイズに合わせた引き出し型の衣装ケースに詰め込めば、本棚よりも省スペースで、埃や日射しから本を守れます。

私の自宅では本棚は置かず、長期保存する本は衣装ケースに詰めて押し入れへ、「いま読みたい本」はデスク横のロッカー、キッチン、脱衣所、玄関などに分散し、1〜2冊ずつブックスタンドに立てて配置しています。 脱衣所に置いておけば、入浴タイムにさっと手に取ることができ、キッチンに置いておけば、煮込み料理の煮込み待ちが読書時間に変わります。玄関に置いておけば、外出時に持って出やすくなるでしょう。


苦手分野の本でギュウギュウの本棚や、積読の山が自宅にあると、新しい本への関心も削がれてしまうもの。季節の変わり目でもあるこの時期にぜひ、自宅の本を総点検して、今読むべき本だけ、目に入る状態を作りましょう。

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