マッチングアプリや経営者からSNSで…弁護士が明かす投資詐欺の実例

ひと昔前は、資産形成といえば銀行にお金を預ける貯蓄が主流でしたが、ここ最近の利率では預けておいても資産の増加は見込めない状況のため、投資に興味をお持ちの方が多いのではないでしょうか?

そんな方に気をつけていただきたいのが、投資と見せかけて実は詐欺という「投資詐欺」。投資詐欺の種類はさまざまです。詐欺師はあの手この手で勧誘してきますが、詐欺にあったとご相談いただく方のお話をたくさん聞いていると、名称を変えても仕組みはほとんど変わらない、ということに気づきます。

そこで私が見聞きした投資詐欺の実例から、こういうパターンには気を付けてください、というポイントを弁護士の視点からお伝えします。


詐欺師との出会い

まず、詐欺師と接点を持つきっかけとして、よくあるのは投資をしているという社内の知人や、友人の知人からの紹介、またSNSやマッチングアプリで知り合った相手というケースです。

「社内の知人」や「友人の知人」という表現にしたのは、友人というほど親しくはないが、知らない程ではない仲、という意味を持たせたかったからです。もちろん、友人から紹介されるケースが全くないわけではありませんが、その場合は、紹介した本人も詐欺だとは思っていないことが多いです。詐欺と分かっていて紹介してくるようであれば、それは本当に自分の友人なのかと疑問になりますよね。

そしてSNSやマッチングアプリで知り合った相手ですが、こちらは本人を特定できるような本名、住所、勤め先、連絡先というものを知らないことが多いです。日常的にアプリ上でやりとりすることで親近感を抱き、信用を置ける相手のように感じてしまっているのですが、いったいその人のどんな情報を知っていて、信頼がおける人物であると判断したのかと聞くと、学生時代の友人や職場の友人とはまったく異質で、相手のことを何も知らないのになぜか「信用できる」と、思い込んでいるケースがほとんどです。

信用できそうで実は信頼ができない情報は、下記などでしょうか。

  • SNSのアカウントを知っている
  • メールドレスを知っている
  • 会社の名刺をもらった
  • 会社のサイトを見させてもらった

いずれも実在しない、あるいは他人の名義でも作成可能な情報であることが多いです。何かあったときに、その人のことをどこまで追跡できる情報を知っているのか、ということで相手を信頼できるかどうかを判断されるといいように思います。

逆に信用できる情報というのは、ご自身が銀行や証券会社の口座を開くときや、公共機関の手続きを行う際にどんな情報を登録しているか思い出してください。住所、氏名、生年月日、電話番号、これらを証明する身分証明書の提出を求められるのではないでしょうか。金銭のやり取りをする相手に対しては、少なくともこれらの情報について真実である、ということを確認できることは必要ではないかと思います。

上記は気を付けていただく前提として、次のようなケースはどうでしょうか?

(1)SNSで、パスポートや免許証の写真を見せてもらったから信頼できる
(2)本人と面会して、パスポートや免許証の写真を見せてもらったから信頼できる

(1)のケース、本当にそれは本人のものか、現在の住所なのか、写真は加工されたものではないのか……弁護士の視点からすると、信頼できる情報とは言えないように思います。このケースでは、仮に投資詐欺であった場合、免許証の情報をもとに損害賠償請求を使用と試みても、本人の現住所が特定できず、訴訟が提起できないということがあり得ます。

(2)のケースでは、本人の顔写真と証明書の顔写真の一致が確認できるので、名前、住所、生年月日が確認できたように思います。ここまで開示してくれる詐欺師は、経験則上少ないように思いますが、それでもその話が投資詐欺ではないとは言い切れないのがここ最近の状況です。闇バイトのように、使い捨てにされる駒として、勧誘担当を担っている人物たちが存在するからです。このケースが仮に投資詐欺であった場合、免許証の情報をもとに損害賠償請求をしていくことが容易になりますが、訴訟をした相手に財産がなく、勝訴判決を得ても結局金銭の回収ができない、ということが多いです。

これは私見ですが、「個人が勧めてくる投資話は、信じない」と割り切っていただいてもいいのではないかと思います。日本では、金融商品取引行為を業として行う場合、金融商品取引業の登録が必要です。勧誘を受けた際には、まず相手方業者の登録を確認していただくのも防衛策になります。登録されている業者の情報は、金融庁が公開している「金融機関情報」のページから確認できますので、参考にしてみてください。

投資詐欺に陥るまでのストーリー

詐欺師は言葉巧みに「預ければ半年で2倍になります」「絶対に損しません」「何もしないでもお金が増えていく」「指示どおりやればどんどん増えていきます」など、とにかく儲かりそうな言葉を並べてきます。得する人がいる一方、損する人もいなければ、どこからお金が湧いて出て来るのか説明がつかないはずですが、損をする可能性について説明がないことがほとんどです。

被害にあった方の多くは、相談時に「どうしてそんなに儲かるのか、仕組みはよくわからなかったけれど、とにかく儲かるということはわかった」というようなことをおっしゃいます。仕組みがわからないのに、どうして儲かることだけがわかるのでしょうか。「儲かる仕組みがわからない」ということ、それは、その話が詐欺だからではないか、と疑いの目を持ってください。

詐欺師からはまず、投資経験があるかどうかを聞かれることが多いようです。自分でいろいろ調べて儲けた経験がある方なら、ちょっとした自信もお持ちかともいます。詐欺師から、少し専門性の高そうな言葉を並べて、「この程度のことならもうお分かりだとは思いますが、一応説明させていただきました、退屈でしたらすみません」などと話をされると、よくわからなかったことも、分かったことにしたくなってしまうというのが人間の心理だと思います。

逆に、投資の経験がなければ、専門性の高そうな言葉と「初歩的なことから説明させていただいています」と言われると、何がわからないのかもわからないまま、とりあえず話されたことが真実だと前提づけてしまいがちなのも、人間の心理だと思います。

そうして、よくわからないまま相槌を打っていると、あれよあれよと相手のペースになっていきます。気づいたら「この話に乗り遅れたら損をする」「こんなうまい話に出会えて自分はついている」、そんな気持ちになって、前のめりに投資をしてしまう方が多いように思います。お話を聞いていると、最初は慎重に、いきなり数百万円のお金は預けたくないが「儲かりそうだし、ためしに少額なら……」と、初回で200万円以下の投資をされることが多いようです。

私が実際に相談を受けた事件をそのままご紹介するわけにはいきませんが、参考にして具体的なケースを紹介します。

Aさんは、投資に詳しいという会社経営者のXとSNSで知り合い、実際に会ってXがやっている投資の話を聞いたところ、よくわからないが非常に儲かる話だという印象を抱いたそうです。その際、Xから200万円を預ければ1ヵ月後に50万円増えると言われ、迷いながらも200万円を銀行から引き出してXに手渡し、X経由で投資してもらうことにしました。

それから1ヵ月後、Xから実際に50万円の利益が出たと報告された際に、さらに500万円預ければ1ヵ月で150万円増えると提案され、Aさんは最初の投資金と利益に手持ちの250万円を加えて、合計500万円をXに現金で手渡ししました。

この結果、また150万円の利益が出たとXから報告された際に、今なら1口500万円のコースに2口申し込めると提案されました。「人気があるので定員に達したら応募できない」「さっき確認したらもう残り数人だった」と言われ、Aさんは前回の投資資金の500万円と今回出た利益の150万円、そこに手持ちの350万円を加えて、合計1,000万円を投資することにして、Xに現金を手渡しました。

Aさんはその後、まとまったお金が必要になったので、Xに投資の元本と利益を引き出したいと連絡したところ、Xから「税金の関係で200万円の支払いを前払いしてもらわないと支払いができない」と返信がきました。そんな話は聞いたことがないので、すぐに返金をしてくれと返答すると、Xからの連絡が途絶えました。不安になりAさんが確認すると、XのSNSアカウントや、SNSに記載されたXが経営する会社のサイトは削除されており、Xと連絡がとれなくなりました。

この時、Aさんは合計800万円を手持ちのお金から支払いをしています。非常に残念なことに、Xの情報を特定することができず、交渉すらすることができませんでした。

投資詐欺では、初回から何回かは、儲かっているような数値を報告されることが多いです。そこで実際に引き出してもうおしまい、とすれば、実際に現金に換金してもらえるケースもあるのかもしれません。しかし、ここで詐欺師は言葉巧みに追加の投資話に誘導してきます。儲かった経験から、多くの方にその資金にプラスして追加投資、という行動をとらせているようです。

そして、「これ以上は無理だ」と思い現金化を希望すると、その段階で連絡が取れなくなるとか、税金の支払いや手数料の支払いのために金銭の振り込みが必要だとか、換金手続きが取引先の国の都合で止められている……など、何かと理屈をつけて追加のお金の支払いの請求をしたり、現金化ができないと回答してきます。

この段階になって、これまで信じていた方も「自分は騙されたのではないか」と疑いを持ち始めますが、なかには藁にもすがる思いで追加の支払いに応じてしまう方もいます。メールの履歴や、SNSの履歴、アプリの取引履歴を証拠のためにスクリーンショットして保存して、なんとかなるはずだと現金化を待つことになります。

しかし、とても残念なことに、この段階で元本や利益分の現金が返されることはまずありません。私がこれまでに受けて相談の経験上ですが、年収によって変動しますが、800万円から2,000万円程度の投資を済ませると、詐欺師側と連絡が取れなくなったり損失が大きくなってきたり、現金化ができないという話が出てくる印象です。

近年特に多い恋愛感情を利用するケース

相手への信頼を得るための手段として、恋愛感情を利用するケースもあります。このタイプは、「ロマンス詐欺」という名称も付けられており、近年急増しているものと思います。そして、被害金の回収が他のケースと比べても難航する場合が多いです。

詐欺の仕組みとしては、前述のケースと差はないのですが、相手の信頼を勝ち取るまでの流れがやや特殊です。儲けたいという投資者の欲望に働きかけるのではなく、この人との関係を維持したい、深めたい、この人を助けたいという、相手に対する恋愛感情を利用して投資させます。

このケースでは、詐欺師と出会うのは恋愛を目的としたマッチングアプリやデートアプリが多いです。相手の素性はわかりませんが、魅力的な異性の写真やプロフィールを用いて接触してきます。ロマンス詐欺の手口の一つを紹介してみたいと思います。

出会いを求め、マッチングアプリに登録したBさんに、すぐにいくつか「連絡を取りましょう」と接触してくるアカウントがありました。それらは2通目のやりとりで、「アプリとは別のプライベートなトークアプリでやり取りをしましょう」といって、自身のトークアプリのアカウントを伝えてきます。

Bさんがトークアプリでのやり取りを辞退すると、あるアカウントは何度かしつこく誘ってきますが、その後マッチングアプリのアカウントが消され、メッセージの履歴などが確認できなくなりました。一方、Bさんがトークアプリでのやり取りに応じたアカウントでは、トークアプリで繋がったことを確認したとたんに、マッチングアプリのアカウントが削除され、メッセージの履歴が確認できなくなりました。

まずアカウントを削除するという動きは、マッチングアプリの本来の使用目的を考えると非常に不自然です。アカウントを削除することで、本人の情報を追うことが非常に困難になります。こういった行動をとられたら、疑いの目線を持ったほうがいいと考えます。

またトークアプリでのやり取りは、こちらからの質問に対してかみ合った回答をせずに、自分の言いたいことだけを長文でメッセージしてくる傾向があります。回答のかみ合わなさを指摘して何度もしつこく同じ質問をすると、トークアプリのアカウントがブロックされたり、アカウントが消されたりします。かみ合わないと思いつつ、相手とのやり取りを一応継続すると、やり取りを続けられますが、こちらの送信に対して非常に短時間で非常に長文のメッセージを返してくるので、別の場所に作成した返信をコピーアンドペーストしているのではないか、という疑いがあります。

トークアプリでのやり取りを開始して2日目か3日目には、「あなたより素敵な人に会ったことはない」とか、「実は今とても困っていて、その問題が解消しないとあなたに会えない」とか、「自分は投資に興味があり、投資のことを考えられる人を素敵だと思う」とか、「将来のパートナーには、投資をきちんとできるようなしっかりした人が好ましい」というような話をされたということです。それぞれの話を深く追求すると、そこから投資の話に勧誘されていくことになります。

会ったこともない相手と数日トークアプリでやり取りしただけで、そこまで思い入れを抱けるのかと疑問に思ってしまいますが、マッチングアプリを利用する方の「できるだけ素敵な人に出会いたい」という気持ちを逆手にとり、完璧すぎるようなプロフィールで「こんな素敵な人には二度と出会えないかもしれない」と思わせ、その気持ちに漬け込む手口は、非常に悪質だと感じます。

ロマンス詐欺の厄介なところは、ほとんどのケースで相手の素性を特定することが難しいことです。マッチングアプリのアカウントが削除されていたり、トークアプリのアカウントも削除されていたり、仮にアカウントが残っていてもそこから本人を特定する情報が得られない、という場合がほとんどです。私もたくさんの相談を受けますが、詐欺として警察が捜査しない限りなにもできない、というのがほぼ全てです。「警察に相談してください」と言う以外に何もできず、そんなアドバイスしかできないことは弁護士として本当に情けない限りですが、ドラマに出てくる弁護士のように、警察顔負けの調査をすることは実際にはできないです。とにかくご自身で気を付けていただくしかない、というのが現状です。


今回は、投資詐欺の具体的なケースを紹介しました。こうして文章で読むと、どうして騙されてしまうのだろうかと思われる方も多いかもしれません。

弁護士として被害者の方から相談を受ける際は、不自然な点や詐欺と関係ある点を中心に聞きますから、どうやってその人を信頼していったのかという、人間関係の構築の部分はあまり紹介できていないからかもしれません。それに、詐欺師は口八丁手八丁で相手に信用させてその気にさせるプロですから、信じてしまうことはやむを得ないと感じます。この記事を読んで、「詐欺の事例で聞いたことがあるな」と頭によぎるだけで、冷静な判断を促す可能性が高くなり、防御力がぐっと高くなると思います。

次回は、詐欺にあったときどうすればいいのか、もしもに備えてどんな行動をしておくべきなのかをお伝えしていきたいと思います。

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