世界遺産登録5年

 間もなく5年になる。2018年6月30日、バーレーンで開かれたユネスコ世界遺産委員会で「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の世界文化遺産登録が決まった。待望の登録決定に県内各地と天草で歓喜の声が上がった。あの高揚感は忘れ難い▲登録から1年半後、新型コロナウイルス禍が襲来し、人の往来が途絶えたのは痛手だった。遺産を訪れた人は登録1年目に比べ3分の1ほどに激減した▲だが行動制限がなくなった昨夏辺りから来訪者が戻りつつある。観光面では、これからが仕切り直しだ▲遺産を構成する集落や城跡などは離島や半島部の豊かな自然の中にある。緑深き山と真っ青な海は心の汚れを洗い落としてくれるし、目に見えない何か大いなるものの気配さえ感じさせるようだ▲命を奪われかねない過酷な禁教令の下、なぜ信仰を棄(す)てなかったのか。最大の疑問の答えも恐らく風景の中にある。雄大な自然と厳しい生活環境は表裏一体。現世の貧しく苦しい生活は、パライゾ(天国)で安らかに暮らす「来世の救い」への憧れを、とても強くしただろう▲便利で豊かな生活を手に入れた現代人はパライゾから遠ざかったのか。遺産を歩けば、そんなことを考える。潜伏キリシタン遺産への旅は、きっと内なる自分と向き合う魂の旅となる。(潤)

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