社説:改正DV防止法 被害者救済へ生かす体制を

 被害者の実態に即した救済につなげねばなるまい。

 ドメスティックバイオレンス(DV)防止法が改正された。配偶者やパートナーとの間で「長時間、正座させて説教する」「監視して、自らの支配下に置く」など、暴言や脅迫で心理的に相手を追い詰める「精神的DV」が、裁判所が出す保護命令の対象に加わった。

 加害者に対し、被害者への接近や連絡を禁止する保護命令はこれまで、殴る蹴るといった身体的暴力や「生命や体に対する脅迫」に限定されていた。

 男女共同参画白書によると、DV相談の6割が精神的DVという。改正法は被害に沿ったものと言えるだろう。

 禁止期間は半年から1年に延長。違反した場合の罰則は、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」と重くした。来年4月1日に施行される。

 ただ近年、増加する相談件数に対し、保護命令の少なさが指摘されている。

 全国302カ所の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は2021年度で12万2千件。うち京都府は5232件、滋賀県は1072件だった。

 24時間態勢の相談窓口を含めると、20年度は18万2千件超と前年度比1.5倍になった。新型コロナウイルス禍で在宅時間が増えたことなどが要因だ。21年度も依然、高水準が続く。

 一方、保護命令の件数は22年で1111件にとどまり、14年をピークに減少している。申し立てから命令までに12日間ほどかかることが要因で、緊急性が高い被害者にとっては使いづらいとの指摘がある。早急に改善すべきである。

 まずは関係機関が連携して被害者を早期に保護し、安全確保や生活再建につなげる仕組みを整えてほしい。

 命令対象を広げても、精神的被害は目に見えず、どのような言動が該当し、どのような証拠が必要なのか曖昧さが残っている。限定的な運用とならないよう注意が欠かせない。

 また被害者のうち、女性の4割、男性の6割が「誰にも相談しなかった」という調査結果がある。被害者は「自分が悪い」などと思い込み、正常な判断ができなくなる。潜在化している被害に周囲が気づき、相談や身の安全確保へと進めることが重要だろう。

 被害者にとって、民間の支援団体の存在は大きい。財政基盤の弱い団体も多く、継続的な助成を求めたい。

 DVでは、被害を受けた側が一時的に身を隠し、生活や仕事に大きな影響を受けることが少なくない。改正法には、加害者への更生プログラムの義務化が明記されなかった。加害者が変わらなければ、被害者の不安はぬぐいきれない。NPOなどの取り組みを参考に、法的な位置づけを検討すべきではないか。

© 株式会社京都新聞社