作詞家 松井五郎の世界を堪能!時代を超えた《女性ボーカル・エールソング編》  大好評!“G-ism”松井五郎セレクション〜女性ボーカル編【おとラボ】

多くの人に、それぞれの心象風景を描いている松井五郎の言葉

2023年6月に各ストリーミングサービスで公開されたプレイリスト『“G-ism”松井五郎セレクション〜女性ボーカル編【おとラボ】』が好評だ。“G-ism” とはすなわち、松井のリリックの世界観をたっぷりと感じ取って欲しいという意向から作成された珠玉の作品集とも言えるだろう。女性アイドル編、男性ボーカル編に続く本編では、女性シンガーならではの情感溢れる世界観の中で松井の言葉が多くの人に、それぞれの心象風景を描いていると感じた。

綴られた言葉がまるで生命体になったかのように躍動感を増していく「ふたりの愛ランド」

今回もエールソングにフォーカスし、楽曲をピックアップしていきたいと思う。エール、すなわち、人生の応援歌となるのだが、松井のリリックは歌い手の個性によって、そこに綴られた言葉がまるで生命体になったかのように躍動感を増していく。

これを強く感じたのが、1984年に石川優子、チャゲ(現:Chage)のデュエットソングとしてリリースされた「ふたりの愛ランド」だ。

 夏 夏 ナツ ナツ ココ 夏
 愛 愛 アイ アイ 愛ランド

という言葉遊びとも言えるインパクトの強いサビの部分がカラオケでも大きな盛り上がりを見せるパーティソングという印象が強い楽曲だが、リリックを噛み締めて聴くとそれだけはない人生賛歌ともいうべき魅力が内包されている。

 熱い波に ことばを預けてごらん  太陽に手が届く 時間がやってくる

 夏が教えてくれた  愛の響き 聞かせたい

特にこの2つのフレーズを思い出して欲しい。チャゲと石川優子の熱唱は、単なる浮かれ気分の夏を歓迎するという意味合いだけではなく、人生の夏を謳歌しよう! という強いメッセージ性が溢れたエールソングへと昇華させている。

リリースから40年近く経った今もこの曲が愛される理由は、この部分に潜んだ松井の人生を謳歌せよ! 自らアクションを起こそう! という願いが込められているからこそだと感じた。石川とチャゲもそんな松井の想いを見事に具現化させたからこそ、多くの人に愛されているのだろう。

楽曲の魅力を最大限に引き出す言葉選びが絶妙な「Never」

そして、同じく1984年にリリースされたMIE(現:未唯mie)の大ヒットシングル「Never」にも「ふたりの愛ランド」とは異なるベクトルの力強いエールを感じる。

「Never」は映画『フットルース』のサウンドトラックにも収録されたオーストラリアのロックバンド、ムービング・ピクチャーズのカバーであることは周知の通り。洋楽カバーの日本語詞でも高い評価を得ている松井だが、ここでも切なさ、壮大さ、緊迫感など楽曲に内包された様々な楽曲の魅力を最大限に引き出す言葉選びが絶妙だ。特にインパクト絶大の歌い出しは、松井から全ての世代に向けての人生賛歌と言ってもいいだろう。

 傷つき こわれた時が
 強くなるチャンスだから
 心を閉ざさないで
 時はもうはじけてるわ
 今すぐにそうよ はじめるの

前へ前へとぐいぐいと手を引っ張られるようなMIEの力強い歌唱もさることながら、ここまでストレートに情感をあらわにしながら前のめりにエールを送る楽曲こそが、まさに “G-ism” と言えるのではないだろうか。

松井が送るエールは、時には言葉を飾るのではなく、感情をあらわにして、聴き手と同じ目線に立つ。この「Never」の日本語詞はその最たるものだと感じた。松井の心の叫びが飾らない言葉で力強く綴られ、多くの人の心を揺さぶる。

「ふたりの愛ランド」と「Never」とでは、歌詞の主人公が置かれた状況は全く異なる。それでも心の奥に潜んだ生きることへの渇望は同じではないかとも思ったりする。全く質感の異なる楽曲でも聴き手は、「明日も頑張ろう」と思うだろう。このエールこそが “G-ism” なのだ。

優しく繊細な言葉で人生に寄り添う「こもれびの椅子」

そして、時には優しく繊細な言葉で人々の人生に寄り添う。そんなリリックも松井は数多く手がけてきた。昨年、ソロデビュー40周年を記念して配信された増田惠子の「こもれびの椅子」は、そんな優しさに溢れた名曲だ。

 きっと それぞれに
 違う夢も
 見えないものを
 また繋いでる
 そこに明日が
 そう あるでしょう

長い人生、大切な人であっても、分かり合えない部分は必ずある。それでも二人で過ごす今が何より大切だと語りかけてくれているようだ。

シンプルな言葉の並びにも関わらず、人間の深い部分での愛の普遍性が見事に描かれている。ゆっくりゆっくりと語りかけるような増田の歌声も、心に湧き上がる泉のように聴き手の心を潤してくれる。

悲しい時、辛い時、独りぼっちの時、誰かと寄り添っている時、人々はそれぞれの感情に支配されている。そんな心の機微に合わせたエールを送り続けたのが松井五郎だ。

『“G-ism”松井五郎セレクション〜女性ボーカル編【おとラボ】』では、そんな松井の時を経ても色褪せることのない普遍的な言葉の力強さ、美しさを感じ取って欲しい。

■ 松井五郎プロフィール
1981年CHAGE and ASKAで作詞家としてスタート。以後、安全地帯、氷室京介、工藤静香、郷ひろみ、田原俊彦、吉川晃司、V6、矢沢永吉、ビリーバンバン、五木ひろし、田村ゆかり、水樹奈々、平原綾香、森山良子、Kinki Kids、杉山清貴、岩崎宏美、沢田知可子、山内惠介、Sexy Zone、田村芽実、藤澤ノリマサ、竹島宏など(順不同)など幅広いジャンルのアーティスト、更にアニメや特撮、また、パク・ヨンハ、東方神起、など韓流アーティストにも多くの作品提供を行う。2023年現在までに3,500曲を越える数の作品を手がける。2009年「また君に恋してる」坂本冬美でレコード大賞優秀作品賞を受賞。2010年同曲で特別賞、JASRAC賞・銅賞を受賞。2018年「さらせ冬の嵐」山内惠介「恋町カウンター」竹島宏でレコード大賞作詩賞受賞など受賞。同年「さらせ冬の嵐」山内惠介で藤田まさと賞受賞。「はじめて好きになった人」2020年竹島宏で作詩大賞特別賞受賞。

カタリベ: 本田隆

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