FIAが新たな電動スポーツ車両規則『ESV』を発表。「Gr.Nの精神を甦らせる」市販ベースが原則に

 FIA国際自動車連盟は、電動スポーツ車両に関する新たな技術規定“Electric Sport Vehicle(エレクトリック・スポーツ・ビークル/FIA ESV)”を発表。先週開催のFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)によって承認され、FIAとしても高電圧安全基準に準拠した手頃な価格での「エントリーレベルの電動レース」を可能にするよう設計された初の車両規則となる。これにより市販車から密接に派生した『FIA ESV』は、国および地域レベルでの競技会に向けた「かつてのGr.Nの精神を復活させる」規則だと謳われている。

 兼ねてより電動GTを視野に入れた新たなEV競技車両規則の制定を目指してきたFIAが、改めてアナウンスした今回のFIA ESV規定は「安全で持続可能なモータースポーツを将来にわたって成長させる」べく、各国のASN登録クラブ等を主体とした方向性を採用。その焦点は、サーキットレースからさまざまなスプリントのイベント(道路交通法上の認証、ホモロゲーションを持つ車両を必要とする競技を含む)に至るまで「あらゆるスポーツ形式で同じ車両を使用できる」ことにあるという。

 そのため、エントラントがそのまま競技車両で会場への往復が可能となるような、日本でいうBライセンス競技的な技術規則が想定され、公道走行用のライセンス(ナンバープレートなど)を取得したものが基本となる。

 これにより電気自動車をラインアップし、今後の拡販を期待するメーカーとしても、ユーザーのレース活動を支援するべく「箱から出してすぐに」走行できる競技車を提供でき、一方で個々のクラブやチームの単位でも、EV競技車両の製作に関与することで「この新しい市場セグメントの構築に取り組むことが可能になる」という。

「世界のモータースポーツ統括団体としての我々の責任は、長年にわたって積み重ねてきたこの分野の専門知識を、会員クラブや地元の主催者、プロモーターに確実に提供することだ」と語るのは、FIAのサーキットスポーツ・ディレクターを務めるマレク・ナワレツキ。

「したがって、さまざまなカテゴリーやフォーマット、またさまざまな競技レベルに適用できる一連の技術規制を設けることが、この役割を果たすための鍵となるだろう」

 そのため、このFIA ESV規則では公道走行可能な市販モデルからのモディファイを最小限に抑えた車両を製造するべく、ロードカー市場の最新トレンドも反映し、グランドツーリングカー(2ドアクーペ)と4ドアのクーペ型スポーツセダンの双方が参加可能となり、そのシャシー最大高は1460mmに設定される。

2021年には、GT3規定ベースの『コンバート案』も見据えた“FIAエレクトリックGT”の構想も
しかし今回は、市販ロードカーをベースとした「かつてのGr.Nの精神を復活させる」規則だと謳われる

■車体形状は基本的に維持。パフォーマンスに従ってのグループ化も視野に

「そして、このFIA ESVはかつてのGr.Nの精神を復活させる。Gr.Nではディーラーで購入でき、必要な安全装備がすべて装備されており、基本的にそのまま競技で使用できる車両が販売されてきた。この方式と精神こそが、さまざまな分野や形式に適していると考えている」

 そのボディワークは、競技向けの大径タイヤを収めるべくフェンダーやホイールアーチの拡大と、追加の冷却ダクトを組み込むためのマイナーな変更を除けばほぼ変更されず、車体の形状は基本的に維持されていなければならない。

 また重量を削減するため、リヤハッチやドア、リヤウイング、ディフューザーなどの一部の車体パネルは、元の形状を維持する軽量素材で作られた同等品と交換可能になるという。

 さらに同クラスでは、ロードカーの公認から最初の2年(24カ月間)で最低生産台数が300台以上の車種を対象とするため、プロトタイプや少量生産のEVは対象外となり、後輪駆動か4輪駆動で最小出力は300kW(約408PS)の設定とされた。

 現状のロードカーでは、プラットフォームを共有する『ポルシェ・タイカン』や『アウディ e-tron GT』、さらに『メルセデスAMG EQE』や『BMW i4』、テスラの一部モデルが想定されるが、FIAとしては重量、空力、パワーユニットなどのさまざまな要素を検討する方法論に基づき、特定のパフォーマンスレベルに従ってグループ化することも視野に入れている。

「FIA ESVのルールセットは、市場の要求に完璧に応えている。この一連の技術規定があれば、メーカーのカスタマーレーシング部門は電気自動車の競技用バリアントを提供できるようになり、GT3と同様にかなりの収入源となるはずだ」と続けるFIA GTコミッション会長のルッツ・レイフ・リンデン。

「さらに、独自のワンメイクシリーズを作成するための扉も開くことができる。この規制が包括的であり、4ドアに対応しているという事実は、ロードカー市場の最新のトレンドを反映しているんだ。すでにいくつかのメーカーが、スポーティな4ドアグランクーペをラインアップしているからね」

プロトタイプや少量生産のEVは対象外となり、後輪駆動か4輪駆動で最小出力は300kW(約408PS)の設定とされた
「すでにいくつかのメーカーが、スポーティな4ドアグランクーペをラインナップしているからね」と、FIA GTコミッション会長のルッツ・レイフ・リンデン

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