「コロナ並みの態勢」

 発言からもう何日も過ぎたのに違和感が続いている。政府が新たに設けた「マイナンバー情報総点検本部」の初会合で、岸田文雄首相が「新型コロナ対応並みの臨戦態勢で」と関係閣僚らにげきを飛ばした▲信頼回復を急がねばならない心情は分かる。だが、政府が何かの事に当たる意気込みの形容として「コロナ並みの態勢」という言葉の選び方は果たして適切なのかどうかと気になる▲新型コロナは全ての人類にとって未知の脅威だった。その脅威を迎え撃つため、政府には最大限の態勢が要求された。他方、マイナンバーを巡って噴出中のさまざまな不手際は、その全てが国民や自治体をやみくもに急かし続けた政府の姿勢に起因している▲騒動の元凶や病巣は政府の側にある。それを棚に上げて高らかに号令を発する神経はなかなか理解しにくい▲こうも思う。政府の新型コロナ対応は、何かを成し遂げ、乗り越えた“成功体験”だった-と胸を張れる代物だったろうか。右往左往や足踏みばかりを繰り返した苦い記憶を忘れ、都合よく上書きしていないか▲さらに-。昨日、首相と意見を交わした専門家は「第9波」に言及した。コロナはまだ現在形で、懐かしく思い返して語る「過去」ではない。首相の言葉は幾重にもずれているように思えてならない。(智)

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