LGBTQ当事者が語る「カミングアウト」「都市部と地方の差」

日本において「LGBT理解増進法」が可決、成立するなど、性的マイノリティへの視線がクローズアップされている中、企業で働く当事者らが職場の現状や、自分らしく働ける場に向けて思いを語り合うイベントがこのほど、都内で開催された。会場に足を運び、当事者の声を聞いた。

求人検索エンジン「Indeed」の日本法人「Indeed Japan」によって昨年6月に創刊された、働くLGBTQ当事者の声を集めた無料冊子『BE』の第2号が6月22日に発行されたことを記念したイベント。同日にブックカフェ「文喫 六本木」で開催された

トークセッションでは、一般社団法人「fair」代表理事で、自身もゲイであることを公表している同誌の編集スタッフ・松岡宗嗣氏に加え、第2号に登場する31人の当事者のうち、学校法人の入学広報部に勤務する佐藤サエ氏(レズビアン)、ピラティス・トレーナーの多和田真希氏(トランスジェンダー男性)が登壇。福島中央テレビの直川貴博アナウンサーがMCを務めた。

当事者のうち7割以上の人がカミングアウトをしていないという同社の調査結果が示された。松岡氏は「2019年に行われた厚生労働省の調査では8割くらいです」と補足。今なお「壁」が高い「カミングアウト」について、2人の当事者が実体験を語った。

「私が大阪で勤務する職場は寛容で前向きに考える風土があった。忘年会の場で恋愛の話になって、『どうなん?』と聞かれて話すようになると、『全然、いいやん』と受け入れてくれた。恋愛話を聞く感覚で(告白を)聞いてくれて、『そういうの、あってもいいよね』という空気感が職場にあったので、安心して働けた」(佐藤)

「私は大学まで女性として生活し、社会人になることを機に男性に移行しようと決めていたのですが、就職面接を女性として受け、就職する際に男性になっていると混乱を生んでしまうと思い、面接の際にカミングアウトしました。人事の方に個別面談をしていただき、私から要望をお伝えし、会社としても何ができて、何ができないかを明示していただいて、お互いの方向性をすり合わせた。そのことがありがたく、カミングアウトして良かったと感じました」(多和田)

また、都市部と地方でのLGBTQに対する意識の違いについても指摘があった。

直川氏は「私は和歌山県出身で、現在も地方(福島県)のテレビ局に勤めているので、大都市部と地方の意識の違いを感じます。佐藤さん、大阪ではどうですか」と話を振ると、佐藤氏は「私も同じ和歌山県出身ですが、小中高と誰にも(レズビアンであることを)言えなかったです。大学進学で大阪に出てきて、やっと言えたという感じでした。(地元では)友人と恋愛の話ができないので、『恋愛には興味がない』というキャラを貫き通しました」と明かした。

一方、多和田氏は「地方ということで言うと、私は沖縄出身なのですが、セクシャリティーにオープンな方が多くて、1学年に1人は当時者の方がいらっしゃった。みなさん、偏見がなくて、例えば私のように『女性だったけど男性になりたい』という人は、体育の授業を男性と一緒に受けたりとかが普通にあったので、そういう感じで当たり前になっていけば偏見もなくなっていくのかなと個人的には感じています」と体験を披露した。

グループセッションも行われ、会場では一般参加の当事者らも登壇者と輪になって語り合った。

今回のイベントを通して、松岡氏は「多くの人は『世の中にLGBTQの人がいる』ことは分かっているんですが、自分の身の回りには『いない』と思っている。それは『見えていない』だけです。職場の会話で『男らしさ、女らしさ』や『みんな異性が好き』という前提で話をし、当事者の人も『ここでカミングアウトしたら自分に不利益がある。それなら言わない方がいい』と思ってしまう状況がある」と問題提起した。

その上で、松岡氏は「企業の側は『当事者は職場にいる』という前提で制度を整えていくことが重要。ポジティブな態度を示すことで、カミングアウトしやすくなる。『こうあるべき』と決めつけず、『こういう人もいる』という〝想像の引きだし〟を常に持っておくこと。性の在り方は多様で、自分の職場にも性的マイノリティの人はいるかもしれない、いや、既にいるであろうという前提に立ってコミュニケーションを取っていただけると、働きやすい職場になると思います」と提言した。

『BE』第2号は、LGBTQ当事者と企業担当者らによるコミュニティスペースなどを7月6日までオープンする「文喫 六本木」で配布。特設サイトではデジタル版を無料公開している。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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