<レスリング>【2023年明治杯全日本選抜選手権・特集】米国期待の新星スペンサー・リー選手が観戦、パリで乙黒拓斗や樋口黎との再会なるか

 

 世界選手権の日本代表をかけての闘いである2023年明治杯全日本選抜選手権を、米国の男子フリースタイル57kg級の期待の星、スペンサー・リーが観戦した。同選手は、2014年世界カデット選手権(現U17=スロバキア)50kg級で優勝したあと、2015・16年世界ジュニア選手権(現U20=ブラジル、フランス)50kg級を連覇。その後、アイオワ大の選手として2018・19・21年NCAA(全米大学)選手権125ポンド(56.7kg)級を制し(関連記事)、東京オリンピックの代表権を獲得する勢いを見せた強豪選手。

 負傷のため東京オリンピック予選は不参加。今年はNCAA選手権で4度目の栄冠を目指したが準決勝で敗れ、その後の全米選手権は負傷のため途中棄権。負傷の完治を目指しつつ、馴染みのある日本で旧知の選手と会うなど束の間のバケーションを満喫した。

▲明治杯全日本選抜選手権第1日の試合を観戦するスペンサー・リー=撮影・矢吹建夫

 リーは「タクトと会いたかった」と、ひと足先にオリンピック金メダルに輝いた乙黒拓斗選手(自衛隊)に会うことが来日の一番の目的だったと説明。「いつかアイオワ大に来て指導してほしいからです」とも付け加えた。乙黒とは2013・14年世界カデット選手権にともに出場。闘うことはなかったが、いずれ世界のトップになる“同志”として感じるものがあったのだろう、親しくなったと言う。

 日本で乙黒の練習を見たり、軽くでも練習したい気持ちもあったそうだが、自衛隊は通常、外国人は入れないのでそれは断念。自衛隊の近くで再会し、目的は果たした。他に早大山梨学院大の練習を見学。明治杯全日本選抜選手権を観戦したことで、日本のレスリングの“エキス”を吸収したもよう。日本のレスリングは「スピードがあって、とてもタフ」という印象を持ったそうだ。

両親は柔道選手、日本が“出会いの場”

 米国のパリ・オリンピック代表は、今年の世界選手権の代表が優勝したとしても、来春まではだれにでもチャンスがあり、リーも負傷を完治させて挑む予定。2021年世界王者で昨年は世界2位だったトーマス・ギルマンはアイオワ大の先輩であり、目標の一人。しかし、今月の世界選手権代表決定戦で、昨年のワールドカップのメンバーだったザン・リチャーズに敗れて世代交代が行われた。パリへ向けては新旧入り乱れた激しい闘いが予想される。「私も頑張ります」と話した。

▲日本のレスリングの印象を話すスペンサー・リー

 16日に帰国というスケジュールの関係で、男子フリースタイル57kg級の試合を観戦することはできなかったが、リオデジャネイロ・オリンピック銀メダリストの樋口黎(ミキハウス)のことは研究済み。

 階級は違うが、ともに2015年世界ジュニア選手権に出場しており、樋口が闘った2016年リオデジャネイロ・オリンピック決勝は会場で見ていたそうだ。「(樋口が)勝ってもおかしくない試合だった。とても強く、素晴らしい選手です」と評価した。

 父は柔道選手で、約1年間、奈良の天理大学で柔道を学んだ。母は柔道のフランス代表選手。「父は、天理大学に来ていたフランス人コーチからフランスに招待され、フランスで母に出会いました。父が日本に行かなければ、私は生まれていなかった。日本は、私にとって、特別な想いがある国なんです」。今回は、天理大学の道場にも足を運び、練習を見学したという。

 来年のパリで、乙黒拓斗や樋口黎との再会なるか。

▲2016年に16歳10ヶ月の史上最年少で世界ジュニア(現U20)選手権を制したスペンサー・リー=UWWサイトより

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