市と県の結束が不可欠!鹿児島ユナイテッドの「新スタジアム問題」、Jリーグの通達は突破口となるのか

現在、新スタジアムを巡る状況が複雑さを極めているのが、鹿児島県鹿児島市だ。

この地をホームタウンとする鹿児島ユナイテッドFCは、2016年にJリーグへ参入。2019年には早くもJ2初昇格を果たすが、残念ながら1年での降格を余儀なくされた。

その後はJ3での戦いを続けており、今季は2年目の大嶽直人監督のもと15節終了時点で3位につけている。

そんな鹿児島ユナイテッドのホーム、白波スタジアムは、鹿児島市の鴨池公園内にある陸上競技場だ。

現在の呼称は、2018年に命名権を取得した薩摩酒造が製造する芋焼酎「さつま白波」に由来。鹿児島湾のすぐそばに建っており、バックスタンドの向こうに桜島の雄大な姿を望むことが可能な“映える”スタジアムとして知られる。

収容人数は芝生席を含めると19,934人。Jリーグ公式の入場可能数は12,606人となっている。

白波スタジアムは、1972年の国体に向けて建てられた古い競技場だ。断続的に改修が続けられているものの建設からすでに半世紀が経過しており、Jリーグのスタジアムとしては不足が目立ってきた。

そうした事情もあり、鹿児島市は新スタジアム建設に関する議論を活発化。

2020年の鹿児島市長選で初当選した下鶴隆央市長のもと3つの候補地を選定して計画を進めるなど、“前のめり”と言えるほどの動きを近年見せている。

その中心地となってきたのが、複合商業施設ドルフィンポート(DP)跡地(※現在のウォーターフロントパーク)を含む本港区エリアである。

ところが、この本港区エリアで鹿児島市が新スタジアム建設の候補地とした2か所、「DP跡地(本港新町)」と「住吉町15番街区」はいずれも県有地。

本来であれば鹿児島市は鹿児島県と緊密にやり取りしながら議論を進めるべきだったが、上述の通り市側が“前のめり”だったこともあり、県との調整がうまくいかないまま現在に至っている(このあたりは詳細に書くと非常に長くなってしまうので割愛)。

DP跡地は海を隔てて桜島を真正面にとらえることができる風光明媚な場所。ここに巨大なスタジアムを建てることは市民の中にも否定的な声が根強い。鹿児島県はDP跡地に老朽化した県総合体育館を新設する構想を着々と進めており、その場合は隣接する緑地も残す予定だという。

鹿児島市は今月上旬、本港区エリアの2か所をスタジアム建設の候補地から外し、新たに同エリア内の「北ふ頭」を候補地として挙げた。ただ、ここでの整備は港湾計画の見直しが必要になるため時間がかかるとされる。

また、鹿児島県の塩田康一知事は白波スタジアムの改修も選択肢の一つとしており、方向性はいまだに定まっていない。

そうしたなか、今週、Jリーグが鹿児島ユナイテッドFCに通達。鹿児島市のスタジアム計画が「停滞している」として、市や鹿児島県の意向表明書などの提出を求めたことが報じられた。

今回の通達は、Jリーグのクラブライセンスに絡むものだ。KTS鹿児島テレビによる解説がこちら。

スタジアムの不足部分を言わば“後回し”にして上位のクラブライセンスが取得できる「例外規定」。いわきFCやいわてグルージャ盛岡のスタジアム整備に関する記事でもお伝えしたこちらが通達の理由だ。

市と県はともに意向表明書を提出する予定だが、Jリーグ側がどのように判断するかは不透明。ただ、どん詰まりとも言える状況の中で出されたJリーグからの通達は、ある種の突破口にもなりえるだろう。

28日に開催された鹿児島市議会の特別委員会では、北ふ頭案に全力を尽くす意向が示されるとともに、市当局の担当者が「オール鹿児島」を強調。ただここに至っては、言葉よりも実行力が求められる。

鹿児島ユナイテッドFCは、ヴォルカ鹿児島、FC KAGOSHIMAの2クラブがともにJリーグ加盟を目指し、様々な困難を経て最終的に統合を果たした「真のユナイテッド」と言える存在。

【関連記事】福田師王も続け!鹿児島県出身のサッカー選手で「歴代ベストイレブン」を選んでみた

鹿児島市と鹿児島県の関係性は、昔から難しいものがある。それだけに、今回の新スタジアム整備で市と県が何とか手を取り合い、「鹿児島のユナイテッド」としてクラブが前に進んでいける状況を作り出してほしいと願わずにはいられない。

© 株式会社ファッションニュース通信社