「とても先進国とは言えない」日本、世界最底辺の男女格差 世界125位…特に深刻な政治分野、岸田政権の「女性活躍」は本気?

G7男女共同参画・女性活躍担当相会合で共同声明文を手にした各国の閣僚らとEUの代表者=6月25日、栃木県日光市

 世界各国の男女の平等度を、データを基に算出して順位付けする「ジェンダー・ギャップ指数」。スイスのシンクタンク、世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表している。今年は6月21日に発表され、日本は146カ国中125位と過去最低となった。ただ、前回2022年も116位。「世界最低水準がずっと続いている」という方が正確だ。
 平等度は政治、経済、教育、健康の4分野で指数化されている。その中で特に深刻なのが政治(138位)と経済(123位)。政治分野で日本より下位は8カ国しかなく、その顔ぶれはミャンマーやイラン、アフガニスタンなど、政情不安が常態化している国や非民主的な国が並ぶ。近隣の中国、韓国も日本より上位で、先進7カ国(G7)の欧米各国ははるか上位。とても先進国とは言えない。
 人口の半数を占める女性がその能力を十分に発揮できない国に未来はない。岸田政権も「新しい資本主義」の中で女性活躍推進を掲げているが、肝心の政治分野で足を引っ張り続けており、「本気度」は非常に疑わしいと言わざるを得ない。(共同通信ジェンダー問題取材班)

女性議員登用に関する計画をまとめた自民党の党改革実行本部総会であいさつする茂木敏充幹事長(左)=6月15日、東京・永田町

 ▽「やる気があるのか」問われる最大政党・自民党の姿勢
 WEFが分析した政治の指標は閣僚と国会議員(日本では衆院議員)の男女比、行政府の長(首相ら)の在任年数の差だった。これらを日本に当てはめると、女性閣僚は2人だけで、衆院に占める割合は10・3%。女性首相はまだ誕生していない。
 ジェンダー問題に詳しい東京工業大准教授の治部れんげさんは指摘する。「政権与党の責任が大きい」。自民党所属の女性衆院議員はわずか8%。衆参両院でみても女性は45人で12%にとどまる。最大政党であり国政選挙で当選する可能性も高いだけに、その取り組みが鍵を握る。
 自民党は6月15日、所属する女性国会議員の割合を今後10年間で30%に引き上げる目標と計画を遅まきながらまとめた。
 しかし治部さんは自民党の姿勢を「やる気があるのか」と批判し、こう続ける。「(経済界などに呼びかける前に)まず足元からやるべきだ。現職優先の選挙の見直しなど、痛みを伴う対策にどこまで踏み込むかが問われている」

「すべての女性が輝く社会づくり本部」などの合同会議で、あいさつする岸田文雄首相(左から2人目)=6月13日、首相官邸

 ▽選挙に挑戦しやすい仕組みが必要
 治部さんが指摘する通り、女性議員の進出を阻む要因となっているのが「現職優先」と「世襲」だ。現職議員は男性が大半を占めており、新人は世襲割合が多い。
 野党をみても、女性は立憲民主党が22%、日本維新の会15%と、自民党を上回るものの高水準とはとても言えない。
 

 立憲民主党は国政選挙に初挑戦する女性に100万円を貸し付ける制度などで人材確保を図るが、それでも、立候補そのもののハードルが高いとの見方も根強い。
 立憲民主党の安住淳国対委員長は「選挙で落ちるリスクを考えたら、出たいと思っても出られない」と語る。そして、落選しても元の職場に復職できる制度のように、選挙に挑戦しやすい仕組み作りが必要だとの考えを示す。
 自民党のある閣僚経験者は、国会審議や地元回りなど議員活動の労力を挙げ、課題の大きさを指摘している。「私生活の大半を犠牲にしなければ務まらないのが政治家の実情だ」

「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さん=1月、東京都渋谷区

▽女性の視点欠けた政策に懸念
 性別に大きな偏りのある議会は民主主義の在り方として問われる。そして、女性や子どもの視点が入らない、ゆがんだ政策決定になりかねないとの懸念も出ている。
 女性議員や候補者らを支援する「Stand by Women(スタンド・バイ・ウィメン)」代表の浜田真里さんはこう話す。「同質性が高い男性中心の議会では、性暴力や緊急避妊薬といった女性に関わる社会問題のほか、少数派の声が拾われにくい」
 若者の政治参加を促す団体「NO YOUTH NO JAPAN」代表の能條桃子さんは、政府が決定した少子化対策方針を例に挙げ、当事者意識のないピントのずれた内容で、若い世代の漠然とした将来不安が解消されないと語る。その上で訴える。「声を上げても変わらない、日本を出て行きたいと思う人もいる。今、(政治分野の男女格差を)改善しないと次世代に影響を与えることを自覚してほしい」

G7男女共同参画・女性活躍担当相会合の討議であいさつする小倉将信担当相(奥)=6月25日、栃木県日光市

 ▽投資判断は企業の多様性を重視
 政治に続いて、経済分野も日本は男女格差が大きいとWEFは指摘している。その要因は女性役員や管理職の少なさ、所得面の格差だ。経済協力開発機構(OECD)の比較によると、日本の女性役員比率は15・5%。この数字の低さは、日本を除くG7諸国の平均(38・8%)やOECD諸国の平均(29・6%)と比べるとよく分かる。
 小倉将信男女共同参画担当相は、世界から取り残されている日本をこう表現した。「日本がカメの歩みをしている間に、寓話と違ってウサギである各国との差は開くばかりだ」
 小倉さんは経済分野での女性登用を急ぐ必要性を再三強調してきた。世界の金融市場では、投資判断の基準として企業の多様性を重視する流れが強まっており、日本企業の競争力低下を招きかねないとの危機感もある。
 政府は現状を変えるべく、今年の「女性版骨太の方針」で、東京証券取引所の最上位「プライム市場」の上場企業について、2030年までに役員の女性比率を30%以上とする目標を明記した。

女性の活躍推進法が可決、成立した参院本会議=2015年8月

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員によると、女性の管理職登用に関しては、女性活躍推進法が施行された2016年当時と比べ、近年は政府の関心が高くなかった。企業側にも、多様な人材を生かす経営上の意義が浸透しておらず「女性の管理職が増えることが組織にとって重要なことだと理解している経営層は少ない」と指摘する。
 ただ、2023年度からは、従業員300人超の企業に義務付けられた男女間賃金差の開示も本格化している。矢島さんは政府にこう注文を付ける。
 「賃金差の公表を形式で終わらせることなく、国が分析の好事例を取り上げ、格差解消への道筋を示すべきだ」

▽教育分野の平等度が政治・経済の格差に影響
 

 G7各国の中にも、以前は男女平等度が高くない国もあった。WEFがジェンダー・ギャップ指数の公表を始めた2006年当時、フランスやイタリアは日本と同水準だった。しかし、両国はその後、さまざまな制度を導入して右肩上がりに改善し、日本だけが低迷し続けている。
 日本の教育分野は今回、ほぼ平等で47位だったが、それでも大学など高等教育への進学率を取りだしてみると105位。格差は小さくない。
 山形大の河野銀子教授(教育社会学)は科学技術や経済などの分野で女子学生が少ない現状を問題視している。「専攻は職業選択につながり、結果的に政治や経済の男女格差に影響する」
 大学進学率は地域差も大きい。都市部では男女とも進学率が高い傾向があるが、大半の地域で女子は男子より低い。その一因として、大学が都市圏に偏っていることや「女の子は地元にとどまってほしい」という親の意識などがある。「地域ごとの格差を解決することで国全体の底上げを進めることも重要だ」
 6月末にはG7男女共同参画・女性活躍担当相会合が開催され、日本は議長国として共同声明をとりまとめた。今後日本もより一層の取り組みが求められそうだ。

上智大の三浦まり教授

▽あらゆる分野で総動員で是正の取り組みを
 最後に、ジェンダーと政治に詳しい上智大の三浦まり教授(政治学)に、今回の「ジェンダー・ギャップ指数」について聞いた。
   ×   ×   ×   
 日本の男女平等度を示す指数(1に近いほど平等を示す)は0・65前後と横ばいのまま。今回、146カ国中125位と過去最低になった。「他国が改善への努力をする中、日本だけが変わっていない」と分かる象徴的な順位だ。人口の半分に当たる女性が、能力を発揮する機会を奪われ続けているのが、この国の現状と言える。
 特に政治分野の低迷は深刻だ。社会が多様化する中、旧態依然とした中高年男性中心の政治とのミスマッチが起きている。先進国の内閣は男女半々が当たり前になりつつあるのに、日本の女性閣僚は2人だけ。背景には衆院の女性議員がわずか10%、中でも政権与党の自民党は8%という現状があり、母数を増やさなければならない。現職や当選回数を重視するやり方では政界に多様性が生まれない。候補者の一定数を女性に充てる「クオータ制」の導入や、女性候補者が少ない政党は政党助成金の額を減らすなど、制度面の改革も必要だ。

 教育分野が前年1位から47位と下落したのは、高等教育(日本では大学)の就学率が今年は反映されたため。先進国では女子の方が一般的に大学進学率が高いが、日本ではまだ男子の方が高く、地域格差も大きい。学びの平等を実現することで女性リーダーが育ち、政治や経済の変革につながる。日本の難関大の女性比率は3割にとどまっており、対策が急がれる。
 ジェンダー平等に向けた取り組みが成果につながるには10~20年ほどかかるものもある。道のりは遠いが、今変わらないと、この先も世界に取り残されてしまう。あらゆる分野において総動員で是正へ取り組むしかない。
 今春の統一地方選では女性が躍進し、明るい兆しもある。例えば女性首長が誕生することはロールモデルを増やす。地域の女性ネットワークが女性議員増加に貢献している。地方からの変革を期待したい。
 今、日本の政治は停滞しており、閉塞感が漂っている。未来に希望を持てない若者も多いだろう。だが政治には他の分野を動かすダイナミズムがある。他国では、政治が多様性を持つことでジェンダー平等を支える法基盤が発展し、経済や社会をより早く変えることにつながった。有権者も「どうせ変わらない」と諦めず、投票によって社会を良い方向に進めていきたい。
(取材・執筆は金子美保、兼次亜衣子、川南有希、石川瑞穂、竹生瞳が担当しました)

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