【シンガポール】新興レス、日本市場の開拓加速[食品] 積極的な製品開発で存在感拡大へ

クラスト・ジャパンの平野宏幸取締役(NNA撮影)

「アップサイクル」飲食料品の企画・生産・販売を手がけるシンガポールのスタートアップ、レス&コ(LESS & CO、旧セーブ・ア・クラスト)が、日本市場の開拓を加速させている。昨年は日本向けの第1弾製品として、カットフルーツの生産工程から出る皮を使った清涼飲料を開発し、コンビニを通じて販売。今年に入ってからはトマトやご飯を原料とした発泡酒を発売した。今後も積極的に製品開発を進めてプレゼンス拡大を狙う。【大友賢】

レス&コは、2019年にセーブ・ア・クラスト(クラスト・グループ)という企業名で創業。今年6月に現名称に社名変更した。従来廃棄していた原料や商品などを(再)加工し、新たな製品を創り出して環境負荷低減に貢献するアップサイクルの飲食料品を専門とするスタートアップだ。

日本では21年から市場調査やコンセプト検証(PoC)を進め、22年には柑橘(かんきつ)系果物のカットフルーツ生産時に残る皮を利用した清涼飲料を開発し、市場に投入した。

同年9月には北九州市の助成金を得て、同市主催のアップサイクル製品の研究開発・実証実験を目的とするプロジェクトに参加。今年3月に、廃棄前の未使用トマトを原材料の一部とする発泡酒を同市が主催するイベントで完成披露し、関係者から好評を得た。5月末には北九州市での知見を生かし、阪急百貨店の博多阪急店が開催した廃棄物削減イベントに参加。トマトの発泡酒を販売した。

今年に入り、3月には阪急阪神ホールディングス傘下のビル管理会社が運営する食堂で未使用となった雑穀米を使用したビールを企画・開発。象印マホービンとも協業し、炊飯ジャーの開発試験時に炊いたご飯を使用したビールの企画・開発にも参加した。

レス&コの日本市場共同運営者で、日本の完全子会社であるクラスト・ジャパン取締役の平野宏幸氏は「博多阪急店は以前もスタートアップとの関わりがあった。購買担当者が北九州市のプロジェクトに関心を持ったことをきっかけに、商品の販売にこぎ着けることができた」と説明した。

■ワンストップの体制構築

レス&コは、シンガポールでアップサイクル飲料の企画・開発・販売を手がけてきた。製造は現地企業に委託するが、それ以外は全て同社が請け負える体制を整えている。

ただ日本では販売免許がなく、企画・開発などのコンサルティング業務に限定されていた。商品化にいたっては、サプライヤー、製造業者、販売パートナーの間をつなぐ役割しかできなかった。

平野氏は「レシピは自社開発で手間も時間もかけて作ったものだが、日本ではレシピは共有すべきものという考えが強い。商習慣的にレシピに課金することが受け入れられにくく、その点を理解してもらうことが大変だ」と語る。

クラスト・ジャパンはこうした状況を打破するため、今年4月に洋酒卸売業免許と通信販売酒類小売業免許を取得。ワンストップで対応できる体制を構築して顧客の利便性を高め、自社のサービスを充実させることで利益向上につながるようにした。

■年内に台湾市場へ参入も

レス&コでは、ビールなどのアルコール飲料分野を「クラスト」、炭酸飲料などの清涼飲料分野を「クロップ」と呼んでいる。24年3月期にはグループ全体で、クラスト分野の販売総額が65万Sドル(約6,900万円)、クロップ分野では80万Sドルを目指す。

日本では今後、クラスト分野の新規企画に加え、シンガポールで製造・販売を続けている3種のビールを輸入する計画だ。シンガポールでの生産、販売の増加と、日本での知名度向上を狙う。輸入・販売に関しては、既に日本の商社が関心を示しているという。

クロップ分野では、清涼飲料の商品レビューを進めている。インターネットのレビューサイトなどを利用してフィードバックを収集し、商品開発につなげる。日本市場では炭酸飲料に可能性を見いだしており、年内にも新商品を投入する意向だ。

日本以外の海外進出については、伊藤忠商事の台湾現地法人である台湾伊藤忠を通じ、台湾の市場調査が進行している。今年中にシンガポールからの製品輸出、または現地での製造を目指している。

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