吉田修一さんの「ミス・サンシャイン」受賞 島清恋愛文学賞

吉田修一さん(撮影:江森康之)

 金沢学院大が主催する第29回島清(しませ)恋愛文学賞は29日、吉田修一さん(54)の「ミス・サンシャイン」(文藝春秋)に決まった。吉田さんは北國新聞社の電話取材に対し「恋愛小説として書いたわけではなかったが、人間を書くと必ず恋愛の部分が出てくる。歴代受賞者を見てもかなりユニークな賞であり、頂けるのは本当に光栄だ」と喜びを語った。

  ●「人間書くと恋愛出る」

 同日、金沢学院大で開かれた選考委員会で決定した。吉田さんは受賞作について、短い話の中にいろんなテーマを盛り込んだとし、「変な言い方かもしれないが、最小限の描写でどこまで表現できるかに挑戦した。最初から、年齢差のある恋愛を描こうとしたのではなく、書いているうちに好意が芽生えていく小説になった」と述べた。

 選考委員の島田雅彦さんは、吉田さんのデビュー作が文学界新人賞を受賞した際に選考委を務めた縁があり、吉田さんは「デビューから二十数年後に改めて評価していただけたのはうれしい」と話した。選考に金沢学院大の学生が参加していることに関しては「若い方に何かしら響いたことがあるなら、お聞きしたい」と話した。

 選考委には今年から島田さんと桜木紫乃さんが新たに加わり、作家の村山由佳さん、秋山稔金沢学院大学長を含む4人が出席し、学生が絞り込んだ3候補作について議論した。

 選考後に会見した島田さんは、年齢の離れた男女の物語に日米関係、戦時下の問題などが絡む複雑な小説だとし、「『うまいエンターテインメントを書きやがって』と思った。断トツの評価で満場一致だった」と講評した。

 村山さんも「吉田さんは格の違いを見せつけてくる」と評価し、桜木さんは「これを読んじゃうと、技術的に他の作品はかなわない。選考会で学生の思いも聞けて有意義だった」と振り返った。

 贈呈式は8月上旬に金沢学院大で行われる予定で、賞金は100万円となる。

 ●大女優と大学院生の物語 「ミス・サンシャイン」あらすじ

 大学院で映画を研究する岡田一心はゼミの教授の依頼で、昭和の大女優「和楽京子」の家で荷物整理をするアルバイトを始める。一心と同じ長崎出身の京子は、ハリウッドでも活躍した銀幕スターだった。一心は京子のところに通ううちに失恋の傷が少しずつ癒やされる。やがて、京子に代わって女優デビューするはずだった林佳乃子の存在を知り、二人の過去を調べていく。

 ★よしだ・しゅういち 1968年長崎市生まれ、法政大卒。97年「最後の息子」で文学界新人賞を受賞し、デビュー。2002年「パレード」で山本周五郎賞、「パークライフ」で芥川賞、07年「悪人」で毎日出版文化賞、大佛次郎賞、19年「国宝」で芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞など受賞多数。作品は多言語に翻訳されている。16年より芥川賞選考委員。

 ★島清恋愛文学賞 大正時代に活躍した作家、島田清次郎(しまだ・せいじろう、1899~1930年)の顕彰を目的として、94年に出身地の旧美川町が制定した。合併で運営を継承した白山市が2012年に廃止を決めたが、民間団体「日本恋愛文学振興会」が賞を引き継ぎ、14年から金沢学院大が運営母体となり、20年から主催となった。

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