ファイナンシャルプランナーの筆者のもとに、会社員で38歳の女性が相談にいらっしゃいました。一昨年に住宅ローンを組んで新築の家を購入したのですが、ネットで調べてみると、住宅ローン金利の低さに借り換えをした方が、返済額を減らせるのではないか、とお悩みのようです。
住宅購入の契約が進んでいくなか、住宅ローンを借りる金融機関や条件について検討する間もなく、契約に間に合わせるためには地元の銀行を選択するしかなく、「ネット銀行などもっと低い金利で住宅ローンを組むことができたのではないか」と、ずっと気になっていたそうです。
一昨年、住宅ローンを組んで新築の家を購入しました。ネットで調べてみると、住宅ローンの金利の低さに、借り換えをした方がいいか気になっています。現在の住宅ローンをネット銀行などの金利が低い住宅ローンに借り換えをした場合、どれくらい返済額の負担を減らすことができるのか、借り換えをするメリットがあるのか知りたいです。
【相談者プロフィール】
・女性、38歳、会社員
・夫、39歳、会社員
・子ども:2人(5歳、8歳)
・お住まい:宮城県(持ち家、戸建て)
【収入】
・毎月の世帯の手取り金額:53万円(夫の月収35万円、妻の月収18万円程度)
・年間の世帯の手取りボーナス額:200万円
・児童手当月額2万円
・毎月の世帯の支出の目安:43万円
【毎月の支出の内訳】
・住居費:13万円
・食費:8万円
・水道光熱費:3万円
・教育費:6万円
・保険料:3万5,000円
・通信費:1万円
・車両費:1万5,000円
・お小遣い:4万円
・その他:4万円(日用品・趣味娯楽費)
【世帯の資産状況】
・現在の貯金総額:800万円
・毎月の貯蓄額:4万円
・現在の投資総額:300万円
・毎月の投資額:8万円
・現在の負債総額:4,000万円
【現在の住宅ローン】
返済期間35年、変動金利0.9%/年、がん団信つき
地方銀行でご契約、住宅ローン控除利用中
【ご希望】
月々の返済額は負担ではないが、総返済額を軽減できる対策があれば知りたい
できれば65歳までに住宅ローンを完済したいと思っている
相談者の方を例に、金利と住宅ローンについて、確認していきましょう。
表面的な金利だけでの判断は危険
住宅ローンの 借り換えの場合、ネットで目にするのは変動金利だと低いところで0.3%前後。借入金額が大きいだけに、少しの金利差でも総支払額にかなりの差が出るのでは!?と感じられている方も多いでしょう。
ネット上で大きく表示されている数値は、あくまでもすべての条件を満たした場合に適応される金利です。金融機関によっては「グループ企業の○○サービスを契約したら」「○○サービスの利用者が対象」など、特定のサービス利用を条件としている場合があります。もともと自分が利用していたり、メリットがあったりするサービスならいいですが、金利の優遇を受けるためだけに余計なサービスは利用したくありませんよね。
さらに、団信やがん団信をつけるためには0.1%から0.3%程度の上乗せ金利が必要となります。自分の希望に合う条件にしようとすると、表示されている金利より高くなる場合が多いです。
相談者のケースでも、がん団信をつけた場合、現在組んでいる住宅ローンの金利と借り換え後の金利では大きな差ではなくなりました。
さらに、借り換えをすることにより発生する費用もあります。借り換え先の金融機関においては必ず手数料がかかり、この費用が削減効果を薄めてしまいます。また、もともと借りている住宅ローンを返済する際に費用がかかる金融機関もありますので、事前の確認が必要です。
借り換えを検討する前にやること
ネット上では実際に借り換えをした際のシミュレーションが誰でもできるようになっています。今お持ちの住宅ローンを借り換えた場合にどうなるか?が気になっている方は、まず借り換えシミュレーションをしてみることをお勧めします。
シミュレーションには、借り換え先の候補となる金融機関のサイトで提供されているシミュレーターを利用しました。入力の際には、現在の住宅ローンと同様に、がん団信をつけた場合に適応される金利を選択、現在の住宅ローンの残りの返済期間を借り換え後の借入期間として設定します。
相談者様のケースでは、トータルで軽減できる返済額は約150万円というシミュレーション結果でした。
少しでも減らせるなら借り換えをした方がいいのでは、と思われるかもしれませんが、住宅ローンの借り換えを行うためには借り換え先の選定、シミュレーション、審査の申し込みなど、かかる時間と労力の負担は小さくありません。労力をかけても審査に通らなかった、というケースも想定されます。
借り換えを行うことが、想定される削減金額に見合うかどうか、ご家族でよく話し合われてから進めたほうがいいでしょう。相談者も、借り換えのためにかかる時間や手数料、前述した団信やがん団信をつけるための上乗せ金利が必要となること、またがん団信自体をつけられない可能性があり、その場合は保険の見直しも必要となってくることなど、労力と軽減できる費用を考慮したところ、借り換えを選択されませんでした。
もともとの金利が1%未満と比較的好条件であり、借り換えをするメリットが薄かった、というケースではありますが、ネットでより低い金利を目にすると、変えた方がいいのではないか、と思いますよね。やはり具体的なシミュレーションをすることで、ご家庭に合った判断が冷静にできるようになるのではないでしょうか。
もちろん、高い金利で住宅ローンを組まれている方で、まだ返済期間も長い方など、借り換えのメリットが大きいケースもあります。その場合は先送りにせず、早めに行動に移された方がより効果を得ることができます。そして、借り換えだけが住宅ローンの返済額を削減できる方法ではありません。適切なタイミングと金額で繰り上げ返済を行うことで、同様の削減効果を得ることができます。
ライフプランを作れば選択肢が見つかる
今回、借り換えシミュレーションとともに、相談者のライフプランに合う、かつ効果的な繰り上げ返済を行った場合のシミュレーションも合わせて作成しました。繰り上げ返済による同様の返済額削減効果にメリットを感じられたようで、繰り上げ返済を目指すことに切り替えられました。そして繰り上げ返済に備えるために、現在の資産形成のペースを進めて行くことを選択されました。
前述した通り、住宅ローンの借り換えは借り換え先の選定、シミュレーション、審査の申し込みなど、かかる時間と労力の負担は小さくありません。労力をかけても審査に通らなかった、というケースも想定しておく必要があります。
一方、繰上げ返済を行う場合は、教育費や老後資金の準備など、他のライフイベントのタイミングを考慮する必要があります。相談者のケースでも、大学進学・車の買い替え・自宅の修繕などのライフイベントが集中するタイミングを考慮した繰り上げ返済のプランを作成しました。
また、現在は貯蓄額にゆとりがあり、教育費もかからないタイミングであることから、貯蓄も活用して資産形成のペースを高めておくことで、後のライフイベントが重なるタイミングへの備えができることをお伝えしました。このようなプランニングの元となるのがライフプランです。ご家族状況・収入・支出・住宅・保険・資産・年金・教育費・車両費などの項目をもとにシミュレーションを行います。
せっかくご家族で住む大事な家を購入し、自分たちの大事なお金を払っていく住宅ローンなのに、不安や納得のいかない気持ちのまま長い間付き合い続けていくのは気持ちがいいものではないですよね。
住宅ローンを賢く返していく方法として、住宅ローンの借り換えも選択肢にはなりますが、目に見える金利だけで判断せず、ご自身のケースではどんな選択肢があるのか、比較をした上でご判断されることをお勧めいたします。