内田英治(監督)×米田理恵(株式会社S-SIZE代表取締役/プロデューサー) - 映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』おかしい人たちが集まってる映画なんです(笑)

初期衝動を大事にして何も考えずに作りました

――『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日(以下、探偵マリコ)』はコメディでもあり、親子モノでもあり、恋愛愛憎モノでもあり、こういう映画だよと説明するのが難しい作品でした。その分、何度でも見返して楽しめる映画です。

内田英治:

最近は理屈を考えすぎる作品が多いので、初期衝動を大事にして何も考えずに作りました。

――内田監督からの企画だったんですね。

米田理恵:

久しぶりに一緒にご飯を食べたときに相談され動き出しました。

――お二人は15年来のお付き合いとのことですが、最初の出会いは何ですか。

米田:

『僕らの方程式』という映画です。

内田:

懐かしいね。

――本当に仲がいいですが、最初から波長が合ったのですか。

米田:

内田監督が素敵な人なので、出会ったときからこうでした。どなたでも誰でも大丈夫だと思います。

内田:

そんなことない、むしろ好き嫌い激しいから(笑)。

米田:

あまり気にせず内田監督に向かっていった私を受け入れてくださったんですよ(笑)。私は映像に関わっていない時期も長かったので、今回久しぶりにご一緒します。

内田:

これをきっかけにまたいろいろやりたいですね。

――米田さんは舞台のプロデュースを中心に活躍されていますが、また映画を一緒にやろうと思ったのは何故ですか。

内田:

米田さんが映像から離れていることは、あまり気にしませんでした。確かに映像と舞台は違いますが、違うからこそ面白い切り口になるかもしれないと思いました。

米田:

内田監督は舞台もお好きなんです。

内田:

特にミュージカルが凄く好きです。一度だけ舞台をやったことがあったのですが、ライブであることの緊張感にへこたれてしまいました。大変でした、いろいろなプレッシャーに耐えきれなかったです。

米田:

私も最初はプレッシャーがありましたけど、ライブだからこそ瞬時に観客の熱が伝わってきて、今はそこに楽しさを覚えています。内田監督は舞台も向いていらっしゃると思いますよ。

今は過渡期だと思います

――客席の反応が直でわかるのはライブならではの良さですよね。とはいえ、LOFTのような音楽・トークのライブと違って、演劇は半月や1ヶ月それ以上のロングランになることもありますが、体調管理や気持ちを保つのも大変だなと思いますがいかがでしょう。

米田:

役者さんの緊張感や体調管理の大変さは映画ももちろん一緒です。でも、舞台はそこも踏まえてのエンタメだと思っています。役者さんは、「映像と舞台の集中力は種類違う」とよくおっしゃっていますね。映像は瞬発力、舞台は持続力が必要になるみたいです。映画も撮り直しはありますが、舞台は上演した時に気になったことがあれば、次の公演で変えることが出来るんです。ですから長くやる公演の場合、初日と千秋楽は全く違った印象になることもあります。

内田:

変えたくない人も居るんですか。

米田:

いらっしゃると思いますが、相手役の方がいつもと違う芝居をして来た場合や、お客さんの反応によって、少しづつ変えていきたくなる役者さんが多いようですよ。

――そこがライブの面白さですね。

米田:

「映画は監督のもの、舞台は役者のもの」とよく言われます。舞台は板の上に上がってしまうと誰にも止めることは出来ないので、演出家と役者の信頼関係がより浮き出るのではないかと感じています。

内田:

瞬間で心に訴えかける強さは映画より舞台のほうが強いと思います。先日「レ・ミゼラブル」を観たんです。今までに20回くらい観てストーリーを知っていますが、役者が変わると全然違いますね。

――違う作品に観えますよね。

米田:

作品の根幹がしっかりしているから、役者が変わっても面白いんでしょうね。古くからの作品が新装版・新演出になったものも公演されていますが、感動は変わらないように思います。

内田:

名作でも新しくなって良くないと感じるものもあるし、難しいですね。

米田:

変えていいものと悪いものはもちろんありますからね。

――今やることの意味を意識し過ぎて、ズレが生じてしまうということもあるんでしょうね。

米田:

ブロードウェイではいま、各人種を何%使わなければいけないというルールがあるようなんです。なので、原作で白人のキャラクターでも黒人やアジア系の役者の方が演じることもあるんです。観ている人もそれを当たり前に受け入れているので、凄いなと思っています。映画はそこの点が舞台より1歩遅れているようにも感じます。いまだにアジア人がアカデミー賞受賞となると凄いニュースになりますから。

――演技力や作品の面白さに人種は関係ないですから、そこがニュースになるのは本来おかしいんですよね。

内田:

業界的に白人の割合が多かったので、そうなってしまった部分はあるかもしれないですね。ルールで決めないと増えるきっかけにならないこともあるので、今は過渡期だと思います。

米田:

そういう意味では日本人が海外を目指すチャンスが広がっているように思います。映画は日本人もハリウッドなど海外に挑戦している人が多く出ているので、舞台からも海外に挑戦していく人がもっと増えるといいなと思っています。

良い違和感が出せた

――映画は監督が主導権を握る部分が舞台に比べて多いイメージですけど、そこも関係しているんでしょうか。

内田:

それは昔の邦画界のイメージですね。今は話し合いをして進めています。僕は良いことだと思います。映像業界は何故かプロデューサーと対立関係を作りたがりますけどね(笑)。

――同じ作品を作っているなら、対立しなくてもいいですから。

内田:

意見を出し合って、良いものを取り入れればいいんです。

米田:

監督とプロデューサーはいい関係を保っている人が多いと思います。内田監督は一緒にやっていても意見を聞いてくれる方です。最終的にその意見を取り入れるかの選択は委ねますが、話し合いは重ねています。

内田:

一人の人間の感性で創ることが作家だという時代もありましたが、皆さんが想像しているよりも話し合いがもたれています。

――とはいえ、今作のように監督が二人となると大変そうですが如何でしたか。

米田:

片山慎三監督・内田監督お二人のいい色が出ながら融合されているので、上手くいったと感じています。二人だからこそ、先ほどおっしゃられていた一言では言い表すことが出来ない部分に繋がっていると思います。『探偵マリコ』では良い意味での違和感がありますが、それは今の日本映画に足りない気がしているので。二人の監督だからこそ良い違和感が出せたのではないでしょうか。

――そうですね。それぞれに特徴があって、観ていて楽しかったです。

内田:

そんなに違いましたか、僕は意外に似ているなと思っていました(笑)。そういいながらも、片山監督はこう来たかと思う部分もあって楽しかったです。

米田:

役者のみなさんが、二人の感性を一つにしてくださったなと思いました。

――複数の監督で撮ろうというのはどなたのアイデアなんですか。

内田:

僕がずっとやりたかった事なんです。最初は十人くらいでと考えましたが、さすがに難しいということで二人になりました。

米田:

十人で同じ物語をリレーしていく作品もいつかやってみたいですね。

――歌舞伎町という舞台がそういった作品とも合っていますね。

米田:

日本は面白いですよ。海外で歌舞伎町みたいな街はないですから。

内田:

夜中の1時にあんなに人が居る街はないよね。

――歌舞伎町だとこの映画に出てくる忍者のような変な人たちも違和感がないですね。

内田:

忍者はいるそうですよ。その話から着想を得て登場したキャラクターです。監修してくれた方も新宿のお店をやっている方で、本人たちはいたって真面目なんです。

米田:

そうですね。みんな、自分の正義に向かって真っすぐ生きているから。

エンタメを求めているなと感じます

――久々にご一緒されたのが信じられないくらい、通じ合っていますね。

内田:

久々に一緒にやって、米田さんはいつでも映像の世界に戻ってこれるなと思いました。徐々に大きいものもふっていきたいなと思っています。米田さんは物事もはっきり言ってくれるし、ありがたいです。映像業界は人材不足なので戻ってきて欲しい。

米田:

今回のお声がけはありがたかったです。私も今の立場になって、舞台で活躍している役者さんやスタッフさんが映画やドラマに挑戦する場所をいつも作りたいと考えているので。

――違うジャンルを経験することで、フィードバックされることがありますからね。

内田:

『探偵マリコ』では、姉妹を演じていただいた中原果南さん・島田桃依さんなど舞台で活躍されている役者の方に出ていただきましたが、刺激を受けました。舞台で鍛えてきた人は力がありますね。海外では舞台と映画の垣根がないですが、日本はまだわかれている部分があるのでそれを融合させていきたいと思っています。

――クロスメディアすることで、あの役者が出ているから舞台を見に行こうとなるきっかけにもなりますから。そこでお客さまの循環も生まれ、知らなかった世界に触れるきっかけにもなりますね。

米田:

舞台に携わっていると、お客さまもエンタメを求めているなと感じます。あとはキッカケですね。

――1度体験してみないと分からないですから。

内田:

今だと映画でも配信で見ようかってなりますからね。

米田:

大スクリーンで観る・生の舞台で観るという醍醐味を経験してほしいです。キッカケがあれば今の人もそういう楽しみ方を知ってくれると思うんです。

――その通りです。

内田:

僕は実は小劇場の経験がそんなにないので、舞台出身のみなさんとご一緒したのは刺激的でした。

自分への反省も込めています

――内田監督の作品は小劇場とも相性がいいと思います。

米田:

内田監督には演劇的な映画を撮って欲しいです。日本の文化のコアなところを切り取って、好きな音楽を散りばめて撮ったら、超カッコいい映画になると思います。

内田:

実はミュージカルをやりませんかって声をかけられたことがあるんです。その時は全く自信がありませんと、断ってしまいました(笑)。

米田:

映画でやりましょう。

内田:

映画ならアリですね。

――先ほどの十人監督映画もそうですし、やれるうちにやりましょう。

内田:

そのためには『探偵マリコ』が上手くいってもらわないといけないですね。でないと、こんな自由な映画撮れないですから。

米田:

内田さんにはこのまま本当に走り続けてもらいたいです。

――米田さんにも引っ張っていただければ。

米田:

分かりました。頑張ります!大丈夫ですか、映画の話ほとんどしないで居酒屋話になってましたけど。

――この映画は説明するのも野暮なので、こういった良い雰囲気の中で作られたことが伝わる方が、いいと思います。

米田:

おかしい人たちが集まってる映画なんです(笑)。

――そういうのが観たいじゃないですか。

米田:

そうですよね。

――先ほどもおっしゃられてましたけど、よくも悪くも真面目な人が多くなっていますから。物語に整合性を求めすぎてもいけないんですよ、自分のことですら不確かな部分や間違っていることはありますから。

内田:

今は理詰めで企画を考えすぎなんです。そこは自分への反省も込めています。

米田:

私は「このキャラクターってこういうことしないですよね。」と言う人は、あまり信じていません。「それは、あなたの定規じゃないって」思ってしまいます。

内田:

みんな、思わぬことをしてしまうから人生で辛いことに合うこともあると思っています。キャラクター通りでいっていたら、みんな末永く幸せな人生を歩んでいます。

米田:

その通りです。好きになっちゃいけない人を好きになるからドラマになる。

内田:

本当にそう、これだけいろいろとアイデアが出るなら第二弾を企画しないといけないですね。

米田:

やりましょう。私も楽しみです。

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