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7月1日、NDソフトスタジアム山形でモンテディオ山形とベガルタ仙台との今季2度目となる「みちのくダービー」が開催される。
5月13日のダービーは仙台が2-1で山形を下し、通算21勝16分18敗とした。山形は公式戦で8年勝利から遠ざかっており(2015年5月27日ルヴァン杯)、リーグ戦では13年間白星を手にしていない(2010年7月13日)。
それだけに山形は是が非でも勝ち星を挙げたい状況だが、仙台は2011年以来のシーズンダブルを狙っている状況だ。
この歴史ある決戦の前に、Qolyは山形の渡邉晋監督へのインタビュー取材を実施。仙台、山形で指揮を執った名将がダービー、今季の山形、愛弟子田中渉について熱く語った。
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――今季仙台の印象について教えてください。
去年の途中から(伊藤)彰さんが監督になって、しっかりとした戦術を構築して、攻守において組織的なチーム作りをされている印象を受けます。同時に個々人を見ればJ2ではトップクラスの戦力だと思う。
戦術的な縛りだけでなく、個人の力強さとかタレント性みたいなのもシンプルに生かしているような局面も見られるので、力が融合したいいチームという印象は受けます。
――山形側でのダービーに臨む意気込みを教えてください。
勝つことだけが我々に課せられた、ただ1つの使命だと思っています。内容がどうこうとか関係ないです。点差も関係ないです。
とにかくゲームが終わって、我々が相手よりも多くゴールを取っているかということだけ。それに尽きます。
――今季より前ですと、2018年天皇杯準決勝が直近のダービーでした。あのときは仙台の監督でしたけど、振り返っていかがでしたか。
あのときの天皇杯準決勝は正直負ける気が全くしてなかった。
我々は確かリーグの最終節がアウェーの神戸戦であって、そこから中3日で天皇杯の準決勝があって、そのまた中3日で天皇杯の決勝戦が埼玉スタジアム。その3試合をどうやって戦おうかというマネジメントを神戸戦に向かう段階でしていました。
だから山形に負けるということは1ミリも考えず、決勝で勝って天皇杯のタイトルを取るためにすべて逆算をしてメンバーも変えて構成しました。なのであのゲームは最終的に迫られましたけど(結果は3-2で仙台勝利)、やっている最中も全く負ける気がしなかったです。
次どうやって勝つかしか考えてなかった。余裕じゃないんですけど、そういう心境でした。
ダービーは絶対に負けてはいけない戦い
――なるほど。あの天皇杯でのみちのくダービーの位置づけは特別だったんですね。
僕が選手で仙台に移籍してきた2001年のときに、初めてダービーを経験しました。引き分けすら許されなかった状況で、実際に厳しい言葉もサポーターから投げかけらました。「やっぱりダービーは、こういうものなんだ」とサポーターに教えられたような瞬間があったんですよね。
そこからは色々な立場でプレーヤー、引退した後もユースのコーチ、トップのコーチ、監督としてもダービーを経験しました。いずれにせよどのゲームでも「ダービーは絶対負けちゃダメだ。勝たなきゃダメ。練習試合でも」と、ずっと自分自身に叩き込まれたし、逆に植え付けてきたつもりです。
ただ天皇杯準決勝はダービーというよりも、天皇杯なら準決勝を勝って、決勝でどうやって勝とうかというところだった。
たまたま準決勝の相手が山形だったんですよね。あまりダービー感というものを、僕自身あまり感じていなかった。
(私の中では)天皇杯準決勝で勝って、決勝も勝つプランで、僕の中で進んでいた。そういう意味ではそのダービー感が全くない唯一の試合でした。
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――山形側は公式戦で8年勝利から遠ざかっていて、リーグ戦ですと13年勝利が遠ざかっている点について、監督はどう感じていますか。
全く気にしていないです。もしジンクスというものがあるとしたら、破るためにあると思う。
過去をいくら掘り返しても、それは自分たちにとってポジティブな歴史だったとしても、それが次のゲームに勝つ保証にはつながらない。
――ただそれだけ勝利が遠ざかっていますと、山形サポーターもダービーの勝利を渇望していると思います。仙台を倒す上で明かせる範囲でのビジョン、攻略法を教えてください。
頭の中にはありますけど、明かせないです(笑)。
――ありがとうございます(笑)。今回のダービーで主導権を握る上で、球際や攻守の切り替えなど様々な要素がありますけど、どの部分を重要視していますか。
球際や切り替えの部分はダービーだからというわけではなく、どのゲームにおいても凄く重要な要素になる。ダービーでも同じようにそこは選手には求めます。ただ、前回アウェーですごく悔しいダービーの敗戦を喫した。
我々はサポーターからブーイングを浴びた。それは僕らの脳裏に刻まれています。その悔しさをエネルギーに変えて、その後のゲームを我々は進めてきたところもあります。
前回の対戦の悔しさは絶対晴らさなければいけない。それをエネルギーに変えなければいけない。そのようなメンタリティーになってくると思います。
ゲームの中でどうやって主導権を自分たちが握るか。主導権を握るというと、ボールを握っている方が主導権を握っていると誤解をする人がいっぱいいる。別にボールを保持するつもりは全くないです。
いかに相手の背後を取って、我々が相手のゴールに迫れるか。それが、我々が主導権を握っていることだと僕は理解をしている。(攻撃は)そういうシーンをより多く作り出し、守備ではそういうシーンを相手に作らせない。そういったところが非常に重要になってくると思います。
苦境の中での監督就任とチームの立て直し
――低迷していたチームを立て直すのにどのようなマネジメントを心掛けたか
オファーをいただいて、監督という立場にならせてもらったタイミングは、本当に難しい状況だったと思います。本当に僕自身の力不足もあったし、選手のメンタリティーの部分はどん底だったのは間違いないんですよね。
そのときに選手に伝えたのは、「自信を持とう」というような話はしていたんですね。ただ、そんな状況で自信を持てないじゃないですか。
でもそのときに目にした記事があって、『エフィカシー(困難な問題を解決しなければならない状況下でも積極的に取り組む意欲)』という言葉があります。
自信は基本的に過去の自分や今起きた現象に対する成功体験で持てるものと捉えられていたけど、実はそれだけじゃなくて、未来に対して「自分たちはこうなりたい」とか、「こうなってみせるんだ」というような希望や願望からも、自信を持てるというような考え方があるんですよ。
それをしっかりとエネルギーに変えて、チーム全体の力に還元していければ、こんなに素晴らしいことはないという記事を、その当時目にしました。
これはまさに自分たちに一番当てはまる言葉と取り組み方だと思ったので、それを選手に伝えました。難しい状況だし、これまでの自分たちに自信を持つことは当然できないけど、視点を変えて自分たちは「こうなろう」に対して、自分たちを持っていけば、それが自信に変わる。
そうやって自分たちを引き上げていこうと、選手たちやスタッフに話続けていたことを覚えています。
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――前任のピーター・クラモフスキー監督(現・FC東京)のチームといまのチームで大きく変わった点は
守備の要素はだいぶ変わったと思います。単純にそういうトレーニングを増やしています。もちろん戦術的に自分たちが「こうやってボールを奪いに行こう」とか、そういった時間、トレーニング、ミーティングも数を増やしました。
それ以外でも、理屈抜きでボールを奪いに行かなきゃいけないシーンや、あるいはゴールを守らなければいけないシーンで、そのときに「どうやって体を投げ出すの?」とか、そういうようなトレーニングは増やしました。
そこは一番変わった部分だと思います。
木山監督との面白い縁
――現在のチームコンセプト(戦術面、戦略面で一番重要視しているポイント)を教えてください。
これは僕が監督になってからではなく、ピーターさん、その前の石丸清隆(現・愛媛FC)のときからそうだと思うんですけど、矢印を前にということですよね。
前に、前に、前に。それは僕もずっと言い続けています。ボールを奪ったら、まず前を見たいし、前を選びたい。前にボールを運ぼう、前に走ろう。守備のときも、まず前からボールを奪いに行こう。矢印は常に、前に、前に、前に、メンタリティーも含めて。
ここ数年で築き上げたモンテディオのフィロソフィーにつながるものだと思う。チームの戦術にも落とし込んでいるつもりですし、戦略という部分でも非常に大事なキーワードになってきていると思います。
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――昔話で申し訳ないです。木山隆之監督(現・ファジアーノ岡山)が山形で指揮を執っていた際、仙台時代の渡邉監督とよくお話しされていたという話を思い出したのですが、山形でトップチームコーチに就任された際にやり取りはされましたか。
決まってから連絡したかな~。行くのを考えているときには連絡を取ってないですけど、決まってからは連絡したと思います。連絡しましたね(笑)。ショートメールで「山形に決まりました。何か変な感じですね」というような話(笑)。
その前に木山さんが仙台に決まったりと面白い縁だけどね。そのときも木山さんが仙台に決まったときも連絡もらったし、お互いそのときは「(渡邉監督から)頑張ってください。(木山監督から)頑張れよ~」と。
去年のホーム岡山戦、久しぶりにピッチで木山さんと会ったときに、「お前、山形のゲームシャツ似合わないな」と言われたのはすごく覚えています(笑)。
愛弟子田中渉とは
――田中渉選手とは仙台、レノファ山口、山形で指導しました。田中選手の印象を教えてください。
彼が桐生第一高校から練習生で参加して、最終的に入団を勝ち取って、当時僕が仙台の監督としてその経緯もずっと見ていたので、すごく思い入れのある選手です。間違いなくその攻撃的なセンスや技術の高さは(練習参加)1発目から見られました。
ただ当時の仙台はJ1だったので、J1チームで戦っていけるほどの技術的なものなのか。フィジカル的なもの、戦術を理解するような頭のところも含めて、まだまだちょっと乏しいと感じていた。でも、なかなか巡り合えないような感覚的なものはたくさん見せてくれた。
磨いていったら何年後かに面白くなるんじゃないかというものを最終的には見せてくれて(仙台に)入団が決まった。
最初はトレーニングついていくのも大変だったし、キャンプの中でなかなかゲームに絡めるような立ち位置にはなれなかった。それでもキャンプの最後の仕上げの練習ゲームか、その1個前ぐらいかな。渉にチャンスが来たんですよね。コーナーキックのこぼれ球をダイレクトボレーで凄いゴールを決めたんですよ。短い時間でゴールに結びつけたという彼の持っている力を示してくれた。
もしかしたら、ここから良くなる可能性というものは、もっと僕らが思っている以上のものがあるんだろうなと。あの一瞬のプレーで感じさせてくれた。
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――今季から完全移籍で山形に加入しました。
今年また久々に一緒になった。最初は僕もコーチだったので、渉により近いところでピッチの中でも、ピッチの外でも映像を一緒に見て、足りないところを要求しながら。それでも彼の良さは、ちゃんと見失うことのないようアプローチをしてきたつもりではあります。
いまはスタメンでなかなか出る機会が僕が監督の当初よりかは減って、また悔しい思いをしていると思うんですけど、メンタル的にすごく充実しているところも見られます。彼の課題だった切り替えのところでのルーズさや、守備の少し意識の乏しさ、そういったものもここ数試合で飛躍的に改善されている。
これからパワーアップした田中渉を見せてくれるんじゃないかと、期待感をすごく抱いています。
哲学と後出しじゃんけん
――山形を最終的にどのようなチームに仕上げたいか
監督のオファーをシーズン中に頂いたとき、「どういう方向性で行くの?」、「何で僕が選ばれたの?」と強化部の方とお話をさせていただきました。
その中で、クラブがいまずっとトライをしている攻撃的に行く部分、攻守において主導権を握るとか、そういったものは漏らさずにやっていきたいと。
そういうものの考え方の上で、「渡邉さんお願いします」という話だった。僕はそれに共感したからこそ、いまがあると思っている。そういったクラブとしてのフィロソフィーは外さずにやっていこうと思っています。
ただ自分たちが「こうやりたい」とか、自分たちのプレースタイルだけで勝てるほど甘くない。当然、自分たちが立ち返る場所として「俺たちはこういうものを目指しているよね」とか、「こういうものが武器だよね」というものは持ってなければいけない。
その幹を太くする作業プラス、枝葉をしっかりと増やしていくのは必要だなと思っている。
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より多く武器を持ちたいと思っています。
相手がこういうふうにしてきたから、それでも「俺たちは、この1個の武器でやり続けるんだ」じゃなくて、やっぱり相手が違うことをしてくれば、じゃあ「俺たちは、こんな手を持っていますよ」とか、「今度こんな手もありますよ」とか、そういうものを選べるような。
最近俗にいう後出しジャンケンとみんな言うけど、そういうものを全ての局面で攻守においてやれるようにしていきたいと思います。結果的に「あれ?山形って色なくなっちゃったの?」と、もしかしたら思われるかもしれない。そう思う人が出てくるかもしれないけど、それで勝ち続けることがでれば、僕はそっちの方がいいと思います。
答え合わせはシーズン後に
――最後に今季の目標を教えてください
ごめんなさい!公にはしていないんですよね(笑)。僕が監督に就任した最初のミーティングで、選手とは共有しました。
残り35試合で数字的な目標は明確に伝えました。(就任)当時5連敗していましたし、そこから伸びて8連敗になったチームからすると、とてつもなく難しいハードルだったと思います。
でも、「残りの35試合で示そうぜ」という話をしました。それによって結果的にどうなるか、順位がどうなるかも含めて、そこにたどり着けるのかつけるのかというところを明確な目標は設定しているけど、シーズン終了後に答え合わせをしましょう(笑)。
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過去に仙台を率いた山形の闘将は、1日の決戦に向けて闘志を燃やしていた。
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みちのくダービー特集第2弾・山形MF田中渉インタビュー取材も本日掲載する。