さらば大聖寺の町中華 愛されて60年「白山」閉店

常連客と会話を交わす(左から)直人さん、大輔さん=加賀市大聖寺一本橋町

  ●コロナ、物価高響き「悔しいけど感謝」

 加賀市大聖寺中心部で60年間にわたって親しまれた中華料理店「白山(はくさん)」=大聖寺一本橋町=が30日、閉店した。低価格で本格的な味が楽しめる「町中華」として、地域住民の人気を集めたが、新型コロナの影響と物価高で経営が行き詰まった。店主の中野大輔さん(40)は「道半ばで悔しいけど、支えてくれたお客さんに感謝したい」と目を潤ませた。

 大聖寺駅から徒歩5分にある店は、大輔さんの祖父で17年前に他界した金治さんが1963(昭和38)年に開いた。2005年に大輔さんの父直人さん(69)が店主となり、15年には小松市内の中華料理店で店長を務めていた大輔さんが「親の助けになりたい」と継いだ。

 名物は「カニ玉」と「肉団子」。大衆的なメニューと、歴代店主の気さくな人柄にひかれ、何世代にわたって通う住民も。大輔さんは「地域に根差した店を目指してきた」と振り返る。

 雲行きが怪しくなったのは新型コロナの感染が拡大した2020年の春。平日の売り上げが4割ほど減った。客足を取り戻そうと夜の営業に加えてランチを始め、メニューの試行錯誤を重ねたが、客足は戻らなかった。

 そこへ物価高が直撃。ガス代や電気料金が高騰し、今年2月に全メニューの2割値上げに踏み切った。

 大輔さんは「売り上げばかり考えるようになり、お客さんのために働くという自分の芯の部分がいつの間にか無くなっていることに気付いた」と語る。

 6月初め、1年間悩んだ末に店を畳むことを決断した。22日に閉店を知らせる張り紙を店前に掲示したところ、問い合わせが殺到、連日満席で市内外から多くの顔なじみが来店した。子どもの頃から通った自営業中谷亮博さん(43)=大聖寺荒町=は「店主とは家族みたいなもの。絶対にここに白山があったことを忘れない」と話した。

 先代店主の直人さんは「みんなが『ありがとう』や『さみしい』と声を掛けてくれる。長いことやってきたことが少しは報われたかな」と目を細めた。

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