特撮ヒーロー伝説の異色回がモチーフ 劇団チョコレートケーキ新作のテーマは「差別」

戦争からテーマを得た作品で評価が高い劇団チョコレートケーキの新作「ブラウン管より愛を込めて-宇宙人と異邦人-」が29日、上演をスタートさせた。特撮ヒーロー番組の送り手たちが、差別をテーマにした異色作に挑む物語。座付き作家の古川健は、自身が衝撃を受けた特撮作品をモチーフにした。

1990年、バブル景気に沸く日本。厳しい制作環境を強いられたワンダーマンの脚本家が、少年時代に親しんだユーバーマンシリーズから、ユーバーマンリターンズ第33話「老人と少年」を下敷きにすることを決意。災害に見舞われた群衆がデマに踊らされ暴徒化し、無害な宇宙人と、その友人である女性を攻撃。友人が殺害され怒った宇宙人が巨大化して街を襲う。ワンダーマンは人類を助けることをためらう。

古川は「戦争物ばかりではなく、幅を広げたかった。戦争がテーマの作品でも歴史を描きたいわけではなく、その状況下での人間を描いてきた。その点は変わらない」と話す。制作は2020年、コロナ禍での緊急事態宣言下の頃に決まった。他県からの来訪者、店舗営業者、一部の職業従事者への嫌がらせが問題になっていた。SNSを通じた根拠や思慮の浅い情報が気になった。「日本人は流れてくる根拠のない恐怖に駆られて、多数派ではない人を傷つけることを繰り返してきた」というかねてより抱いていた問題意識、幼少時から親しんできた特撮作品、その中で差別をテーマとした傑作、それぞれの要素が共鳴した。

特撮ヒーローを好んでいた古川自身は大人になり、評価が高い異色話の数々を見直した。「本当にすごい作品ばかりだった」と、関連書籍を読み込んだ。波紋を呼びそうなテーマを避けようとするテレビ側の当時の状況を知った。ドラマの脚本も手がけるようになった現在、共感する点も多かった。

「劇作とは違ってテレビの場合、この言葉はまずいかな、と自主規制をかけることがある。それでも、ここはちょっと…と直されることも多い。だから物作りは今、少し元気がないように思う」。当時の異色作を「何十年も語り継がれる作品を残したくれたことは素晴らしい」と敬意を示す一方、自身の経験を重ねて「作品を毎週つくるのは本当に大変。どうしてもこれを書かないと気が済まない、というものではなく、スケジュールやハードな環境、作り手同士の巡り合わせで、結果的にそうなっちゃたような気もします」と、思いを寄せた。

モチーフへの敬意を散りばめ、想像する当時の制作状況、現代的な問題要素も織り交ぜ、古川なりの問題解決の糸口を用意した。主人公が書いたシナリオが紆余曲折を経てたどり着いたからこそ、その言葉に力が宿る。「無知と無関心は差別に加担する。僕自身これまで無関心であった部分はあるので、その点は反省して、差別に向き合っていきたい」と今後を見据え「多くの人々が絡み合ってひとつの作品が生まれていくのが、単純に一番面白いと思う。観終わった後、何かが心に残ればうれしい」と呼びかけた。なお、影響を受けた具体的な作品名は、版元との関係で口にはできなかった。著作権への配慮もまた、作り手は避けて通れないところ。今作の本質と関係ない部分にも、作家が直面する苦労を感じた。

演出は日澤雄介。出演は浅井伸治、岡本篤、足立英、伊藤白馬、清水緑、青木柳葉魚、林竜三、緒方晋、橋本マナミ。東京・シアタートラム公演は7月16日まで。愛知公演は同29、30日。8月5日に長野公演。映像配信も行う。詳細は劇団ホームページまで。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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