日経平均の高値更新は「バブル」ではない。それでも気にしておきたい激変の可能性となる要因

日経平均が33年ぶりに33,000円台を回復するなど好調な日本の株式市場を背景に、株式投資に世の中の興味関心が集まっています。一方ですでに長く投資をしている経験者のなかには「バブルなのでは?」という意見もSNSを中心に散見されます。今回は日本の株式市場が短期間で高騰した要因と今後の展望について、経済データや要人の発言に基づき、事実ベースでの説明をしていきたいと思います。


金融政策と為替の影響

足元の日本株の上昇についてはいくつもの要因が影響していると考えます。そのうちの1つとして挙げられるのは日本と欧米における金融政策の違いでしょう。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は6月の会合で11会合ぶりに利上げを見送りましたが、パウエル議長は「金融政策を決定するメンバーのほとんどが年内にいくらか利上げをすることが適切だと考えている」と語り、次回の会合での再利上げをにおわせました。ECB(欧州中央銀行)は6月の会合で8会合連続となる利上げを決定しましたが、過去1年間での利上げ幅は4%に達し、過去最速ペースの引き上げとなっています。

一方で日本銀行は6月の金融政策決定会合で大規模な金融緩和を維持することを決めました。欧米が金融を引き締める一方で、日本は緩和を続けていることでお金が集まりやすい状況となり、また為替相場でも円安が進行しました。一時は「悪い円安論」が喧伝されていましたが、そもそも日本経済全体には円安の方が好ましいと従前から国内外の公的機関がレポートを出しているように、株価を見る限りは円安がネガティブに捉えられているということはないのでしょう。

タイミングがあった国内要因

金融政策の違いとそこから生じる円安以外にも要因はあります。1つは5月から新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行したことによって、内需が回復するという期待が膨らんだことです。また、前述の通り円安が進んだことで、訪日外国人が増え日本国内における消費が拡大するというさらなる追い風にも期待が集まったことです。日本経済の半分以上は消費によって構成されているため、当然ながら消費が伸びれば日本経済も成長していくと考えられます。

また、2022年4月の市場区分の見直しにあわせて、今年の3月末に東京証券取引所が継続的にPBR(株価純資産倍率)が1倍割れとなっている企業(当時約1,800社)に対して、自社の株価水準を分析したうえで改善する具体策を公表するように要請しました。これを受けて、すでに自社株買いや増配を発表した企業も複数あり、この流れに「モノ言う株主」ともいわれるアクティビストたちも同調する動きもあったため、割安修正の株価上昇を期待した投資資金が日本の株式市場に流入したとも考えられるでしょう。

グローバルな投資戦略

少し視野を海外に広げなおしてみると、中国では駐豪銀行にあたる中国人民銀行は6月に利下げに踏み切りました。中国では最優遇貸出金利(ローンプライムレート)が政策金利と位置付けられていますが、期間1年、5年超のいずれも下げました。昨年8月以来、10か月ぶりの引き下げとなりましたが、背景には中国経済の減速懸念があります。

グローバルに投資している運用会社の観点からすると、リスク分散のために投資資金は世界中に分散をします。世界中といっても各国を細かくみていくリソースはないため、まずは世界をエリアごとに考えます。当然、中国も日本もアジアという地域で考えます。アジア地域にお金を投じる際に、中国の景気が減速すると考えれば、中国に投資していた資金の一部を他のアジアの国に移すわけですが、そうなると前述のように好材料が揃っている日本に移そうということになるわけです。

また、ロシアがウクライナに侵攻したように、中国も台湾への軍事侵攻の可能性は数年前から指摘されており、地政学リスクが高まったと考える投資家はやはり中国への投資資金の一部を他のアジアの国に移すことが考えられます。

実際に「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェットは先月、中国の電気自動車大手BYDの株を売却する一方で、商社株を筆頭に日本株へのさらなる投資の可能性を語りました。また、世界最大の資産運用会社である米国のブラックロック社のラリー・フィンクCEOも「中国株から日本株に資金を移す動きが見られる」とコメントしています。

タイミング次第では激変注意

このように、足元の日本株の上昇について、様々な要因を1つずつみていくと、いわゆるバブルのように根拠なき熱狂によって株価が高騰しているわけではないということが理解できるかと思います。それならば、今回の日本株の上昇局面には安心して乗っかっていればいいのかというと、そういうわけにもいきません。

たとえば、米国では急速な利上げによってインフレ率の伸びはピーク時に比べれば鈍化したものの、その副作用として中国同様に景気減速懸念が強まっています。実際、市場ではあと1回利上げをしたら、それ以降は金利を据え置き、年明けには利下げ局面に転換するという予想が最も主流となっています。一方で、日本では徐々に物価上昇率が高まってきていることから、日銀内部にも現在の大規模金融緩和を一部修正するべきといった声が出てきています。

仮に米国が金融政策を緩和方向に転換する一方で、日本が引き締め方向に動けば、為替は円高方向に転換すると考えられ、前半で上昇の要因としてあげていた話が全て逆転していくことが分かります。また、割安修正を期待する買いについても、ここまで株価が上昇してくれば、ある程度は割安感がすでに修正されてしまっているため、これ以上の押し上げ要因にはならないとも考えられます。

足元の急騰に一喜一憂するのではなく、自分が当初決めた投資スタイルを貫くという頑固さが求められる局面なのかもしれません。すでにつみたて投資をしている方は、特に下心を出して入金額を増やそうとか、バブル崩壊の急落前に全て解約してしまおうといった、極端な投資行動は避けるべきだと考えます。

© 株式会社マネーフォワード