静岡県熱海市の土石流災害からまもなく2年…。広島市内にも、ふもとの住民が不安視する大きな盛り土があります。
2年前の総点検で「不適切」だと指摘されていますが…?
広島県 農林水産局森林保全課 小笠原貞夫 治山担当監
「土地所有者につきましては、特定できていません」
行政が改善を促そうにも、誰の所有かわからないというのが現状です。斜面災害の専門家とその現場を歩きました。
盛り土の総量は「熱海」の2倍以上⁈
まもなく2年となる静岡県熱海市の土石流災害の場合、雨量や地形のほかに「業者による不適切な盛り土」が要因だったことがわかっています。
広島市内にもこういった「不適切盛り土」があります。広島県は今後、詳しい調査をするとしていますが、先日、広島大学防災・減災研究センターの調査で、この盛り土の総量は15万4000立方メートルに上ると推計されることがわかりました。これは、土石流災害が起きた熱海市の盛り土部分の総量(約7万4000立方メートル)の2倍を上回ります。
この盛り土部分、現状はどうなっているのか? 不安を抱くふもとの住民と、斜面災害の専門家で広島工業大学の 森脇武夫 教授と一緒に現場を歩いてみました。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「ちょうどあそこが盛り土がきて、あそこが地山、その境のところが谷になっているんですけど、上からの地表水でちょっと “ガリ侵食” っていうんですけど、浸食されて、盛り土の表土が少し流出していますね」
法面の浸食は、そこかしこで発見されました。
現場は、広島市安佐南区上安町にある産業廃棄物処分場の南側にある不適切な盛り土。この業者の許可を得て、盛り土上部から入り、山を下りてみることにしました。
見つかったのは、“ガリ侵食” だけでなく… 崩落・途切れた排水管・根曲がり、そして…
歩き始めてすぐ見つかったのは、コンクリートのがれきでした。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「コンクリートは基本的には地山にはありませんので、盛り土の中にあったものだろうと思うんですけど、それが、こっちの新しく盛り土された(産廃処分場からの)ものなのか、洗い流されて下のものが現れてきたのかは判断はできませんね」
広島工業大学で地盤工学などを教える 森脇武夫 教授、その道35年の斜面災害の専門家です。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「非常にやわらかい。グサッと入ってしまうんですけれど、そこまで下までグサッと入ったりしないのである程度の強度はある。そこまでやわらかすぎて、今すぐ崩れるという感じではない」
盛り土の東側の縁に沿って法面が崩落しているために本来、地中にあるはずの排水パイプがむき出しになっていました。途切れたパイプを流れてきた水は、盛り土に浸透することになります。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「上からの水が盛り土の中に入るということ。本来は盛り土の中に入らずに下まで行かないといけない」
Q.盛り土に入ったらダメなんですか?
「盛り土の中に入ると、盛り土の重さも重くなるし、盛り土の強さも弱くなる。水を含むと。ですから、できるだけ盛り土の中に水を入れないようにするのが、盛り土の維持管理の鉄則なんですけれど、その維持管理が適切にされてない」
途切れたパイプは、盛り土のそこかしこにありました。ふもと住民の今中さんは、長年、土地造成の現場で働いてきた経験から、ここの排水設備の設置の仕方がそもそもいい加減すぎるとお怒りです。
植林されたとみられる杉や檜の中には、ところどころ、根元が曲がっているものがありました。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「多少、ここの地盤がずれている可能性がありますね。緩いとずれやすい」
つまり、根曲がりした樹木の周辺は、局所的に地盤が緩いという可能性があるそうです。
さらに、根こそぎ倒れているスギやヒノキもあちこちで見つかりました。
根こそぎ倒れた木の意味は… 浸食は拡大中⁈
広島工業大学 森脇武夫 教授
「単純に怖いですけどね。こういうのが浸食されて、根がなくなって倒れたんでしょうね。1本の木が下まで行くことは、ほぼないんだけれど、全体が土石流化していくと、流木となって非常に危険なんです」
この場所に何度か来ている今中さんは、2年前に最初に確認したときより浸食が大きくなっていると実感しています。
ふもとの住民 今中康昭 さん
「(2年前と)全然違う。年々深くなって、大きくなって、崩れる範囲が広くなっている」
一番大きく見えた東側の崩落のサイズを測ってみると、幅は3.5メートル前後、深さはおよそ2メートル、そして距離は140メートルほどあるため、ここから流出した土砂の量は1000立方メートル程度と推定できました。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「どんどん周りを削っていくので、削られるとこっちまで崩れていく。それが全体に影響していく可能性もなくはない」
ここでは、スギやヒノキの大木の根が露わで、その下の地面がえぐられていました。
さらにその下流では…
記者
「看板を見つけました。これ、落ちているんじゃなくて、立っているのが折れているみたいです」
看板があったのは、盛り土の中腹の東側でした。
「土砂流出防備 保安林」の看板はどうして倒れたのか?
記者
「土砂流出防備保安林とあります。広島県が定めた保安林の印。ここの土砂は、みごとに流出してしまっています」
さらにもう1か所、盛り土のすそよりも下流で…
記者
「もう1つ見つけました、土砂流出防備保安林。杉の木に倒されてしまって、傾いている看板です。本来はここの森を守るために立てられたものだと思います」
この看板は、広島県のことし2月の現地調査では異常はなかったとのこと。上に倒れたスギの葉もまだ青々と繁っていました。
盛り土の東側には1トンサイズの大きな土のうで補修した跡が…、西側には小さなサイズの土のうで何度も補修した跡が確認できました。
広島工業大学 森脇武夫 教授
「普通に盛り土があったものが流れて、それが流れないように補修をしたんだけれど、また、それが流れている」
最後に森脇教授は、現状では盛り土全体が崩壊するという不安定さはそれほど感じないとしながらも、危険性をこう指摘しました。
広島工業大学 森脇武夫教授
「盛り土の両すその下が、“ガリ侵食” で土が減ると、全体を支えている力が少しずつ減るので、盛り土全体に影響が及ぶ可能性がある。熱海の場合は上からの水が盛り土の中に入って、一部地下から盛り土を押し出すように働いて崩れたので、上流で降った雨がそこにずっとたまり続けて、さらに地下から押し出してくるということなので、ここもそういうことがならないように上をしっかり維持管理する必要がある」
Q.では、なにより管理することが大事?
「そういうことです」
― 盛り土の専門家は、「盛り土を安全に保つには、排水などを適切に管理することがなにより重要」と指摘しますが、誰が作ったのかも、今、誰の所有地なのかも行政が特定できていないというのは心配です。
― また、今回の取材でわかったことの1つに「保安林」の存在があります。本来は、開発を制限することで土砂流出を防ぐために指定されるものです。
ー 県によりますと、「法務局に登記されている地番からいえば、盛り土部分は保安林ではない地番だ」としています。実際、この場所で土砂の流出は防げていないという現状があると言えます。