<社説>認知症基本法成立 共生社会に向けた一歩に

 認知症の本人や家族の意見を反映し関連施策の充実を図る認知症基本法が、参院本会議で全会一致により可決、成立した。「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができるよう、施策を総合的に推進する」ことを目的に掲げている。基本法成立を機に、認知症だけでなく、認知症の当事者やその家族への理解が深まってほしい。 認知症は、脳の病気など多様な要因で認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態だ。代表的なアルツハイマー型では物忘れや失語といった症状が起きる。

 認知症基本法では、首相を本部長とする「認知症施策推進本部」の設置を規定。推進本部は認知症の人や家族らの意見を踏まえ基本計画をつくる。基本施策として認知症の人が社会に参加する機会を確保し、国民の理解を促すほか、認知症の人や家族からの相談に総合的に対応できる体制整備が盛り込まれている。一方、都道府県や市町村による計画策定は努力義務となった。

 法案は超党派の国会議員連盟が、当事者団体などと議論を重ねまとめたものだ。成立を受け、当事者団体からは歓迎の声が上がった。「認知症の人と家族の会」(京都市)の鎌田松代代表理事は「安心して暮らせる社会の実現に向けた第一歩」と述べた。

 高齢化に伴い患者数は増えている。厚生労働省の推計によると日本の認知症患者は2025年には約700万人となり、高齢者の約5人に1人が認知症になるという。

 政府は19年、認知症施策の推進に向けた大綱を策定した。この中では認知症の発症を遅らせる「予防」と、認知症になっても地域社会で自分らしく暮らしていける「共生」を車の両輪と明記。認知症の人や家族の視点に立って施策を推進するとした。認知症基本法でも「共生」の理念が重視されたと言えるだろう。

 県内でも、認知症高齢者の見守り事業や「認知症カフェ」など各地で支え合いの取り組みが進んでいる。新型コロナウイルス拡大による影響も余儀なくされているが、これら草の根の取り組みを継続・拡充していくことが重要だ。県や各自治体にも積極的な支援を求めたい。

 岸田文雄首相は通常国会閉会後の記者会見で、認知症対策を新たな国家プロジェクトとして位置付ける考えを示した。新しい資本主義実行計画の改定案にも、認知症治療薬の開発を目指すプロジェクトの創設が盛り込まれた。

 認知症基本法成立で、政府には、当事者らの目線に立った具体的な施策を進めてほしい。また、地域社会ではこれまで以上に当事者らへの理解を深めていく必要がある。

 認知症は誰もがなり得るものであり、多くの人にとって身近なものになっていくだろう。認知症に限らず、さまざまな疾患がある人たちが生きやすい社会の実現が求められている。

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