豊かな水資源を再エネ化「小水力発電」再び脚光 千キロワット以下、河川や農業用水活用 兵庫・宍粟で本格稼働

小水力発電の先進地・オーストリアの発電機を採用した=宍粟市千種町黒土(撮影・長嶺麻子)

 気候変動への危機感が強まる中、環境への負担の少ない発電方式として「水力」が再び脚光を浴びている。中でも、河川や農業用水を活用した千キロワット以下の小規模なものは、太陽光や風力のように「新エネルギー」として国が普及を促す。今春、宍粟市で新たな発電所が稼働した。(石沢菜々子)

 山々に囲まれた同市千種町の黒土地区。千種川の支流、黒土川の取水設備に水が勢いよく流れ込む。「この水が落差50メートルの水圧管を下り、その力で発電する仕組みです」。住民らで設立した「黒土川小水力発電合同会社」代表、春名玄貴(はるき)さん(74)が説明する。

 専門のコンサルタント会社の協力を得て、今年5月に本格運転を始めた。元々、農業用に取水しており、発電にはその余剰分を使う。オーストリア製の最新型水車発電機を導入し、最大出力は39.6キロワット。50世帯分の年間使用量を見込む。

 「計画の2割増しくらいのペースで発電できている」と春名さん。売電収益の一部は里山保全などに活用する。

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 山地が多く、水が豊富な日本では、明治、大正時代に水力が積極的に導入され、発電の主流だった。戦後、国の主電源は石油やガスなどに移行し、小水力は姿を消した。黒土地区でも大正から戦前まで各家庭の電源を支えていたという。

 天候に左右されず、電力の安定供給が見込める小水力が再び注目されたのは、東日本大震災後だ。国の固定価格買い取り制度(FIT)が後押しし、千キロワット未満は2021年3月時点で622地点に。兵庫では、神戸市の六甲川でも市民が発電所を稼働させた。

 資源エネルギー庁によると、県内で発電に利用可能な水量のうち、実際の利用量は約3割(21年3月時点)。土地の制約や経済性を考慮しない単純計算だが、高い潜在能力を示す。

 黒土地区の事業に協力するコンサルタント会社「イー・セレクト」(京都市)の岡山秀行社長(63)は「地域の資産を地域のために生かす取り組みをどう増やすか。宍粟から日本の小水力発電の現状を変えたい」と話す。

 各地から視察が相次ぐ同地区の取り組み。だが、実現までには7年を要した。

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■豊かな水資源再エネ化模索 放水量工夫治水と両立図る 川西・一庫ダム、発電拡大へ実証実験

 宍粟市千種町黒土地区の「黒土川小水力発電所」は、住民の発案から稼働まで7年を要した。背景には水力ならではの課題もある。

 水資源は河川法、自然環境保護法、農地法といった規制が多い。権利関係も複雑で、関係機関や地域内の調整に時間がかかる。同地区でも、地下に配管を通す田畑への影響などを懸念する声が上がり、時間をかけて理解を深めたという。

 住民主体で取り組む場合、資金の問題も大きい。黒土の総工費は約8800万円。3千万円は兵庫県の無利子融資(20年)を活用し、残りは金融機関から借り入れるなどした。

 国内の小水力発電の導入状況について、全国小水力利用推進協議会の中島大(まさる)事務局長(62)は「きちんと設計された設備は100年後も稼働する。準備に相応の期間がかかるのはやむを得ない」と指摘。その上で「住民が全てを担わなくても、事業会社がパートナーとなって進めた事例もある。肝心なのは住民の熱意だ」と話す。

 小水力の開発にとどまらず、既存の治水・利水ダムを活用した水力発電量拡大の試みも始まっている。

 川西市の中心部から北に約9キロの山間部にある「一庫(ひとくら)ダム」。主に流域の洪水を防ぐために水量を調整し、同市や尼崎市などに水道水を供給する役割を果たしてきた。

 水力発電施設も備えるが、従来はダムの電力をまかなうために稼働してきた。ダムを管理する水資源機構と国土交通省は2023年度から、発電量を増加させる実証実験を始める。

 「放流を工夫すれば発電量は上がる可能性がある」と同省の担当者。従来は一気に放流して発電してこなかった大雨の後も、少しずつ放流して発電するほか、冬場の水位を従来より高めに設定して発電のための水量を確保する。

 同省は「ハイブリッドダム構想」の一環で、一庫を含む全国72ダムで発電量を増やす取り組みを進める。22年度には全国6ダムで一般家庭500世帯分の電力を新たに生み出した。担当者は「今後はAIによる天候予測も活用しながら効率的な発電方法を探る」と話す。

 23年度は3ダムをモデルに、水力発電施設の建設を目指す電力会社から意見を聞き、募集要項を作る。

 ただ、限界もある。兵庫県は6年ほど前、再生可能エネルギー導入を推進しようと、県が管理する21ダムについて設備を新設して発電できるか検討したが、実際に建設できたのは生野ダム(朝来市)のみだった。

 要因は堤高と水量の不足だ。比較的小規模なダムがほとんどで、発電機を回すための十分な「位置エネルギー」と放流量が得られる見通しが立たなかった。

 同省の担当者は「既存ダムのあらゆる可能性を検討し、治水と両立させた上でクリーンエネルギーの発電量増加を目指す」としている。(石沢菜々子、杉山雅崇)

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