全国的に珍しい、城跡にある温泉旅館が「御城印」製作 かつて築かれた城の姿、CGで再現 兵庫・加古川

井ノ口城跡にある温泉旅館「みとろ荘」の纐纈茂樹支配人(左)とCG御城印を製作したユーザックシステムの本岡勇一さん=加古川市上荘町井ノ口

 かつて加古川西方の丘陵地に築かれた井ノ口城を広く知ってもらおうと、城跡に立つ温泉旅館「みとろ荘」(兵庫県加古川市上荘町井ノ口)とアプリ開発会社「ユーザックシステム」(東京都中央区)が協力し、コンピューターグラフィックス(CG)で「再現」した城の姿をあしらう「御城印」を製作した。(増井哲夫)

 城跡にある全国的にも珍しい旅館で、1965年に創業。「みとろ」は、かつての井ノ口城主の娘「みとろ姫」に由来するといい、近くには姫の非業の死を悼んだ石仏がある。

 新型コロナウイルス感染拡大期には観光業界が苦境に立たされ、同旅館も団体客が大幅に減少し、廃業の危機に。城跡にあることを生かした取り組みができないかと考え、以前、神戸新聞の切り抜き帳連載「ひょうごの城」で井ノ口城を執筆した城郭研究家の本岡勇一さん(53)=同県稲美町出身=に相談した。

 本岡さんは同社のCGディレクターを務めており「お城に泊まれる旅館は貴重」と井ノ口城のCG制作や御城印を提案。今回の企画につながった。

 井ノ口城については不明な点が多く、本岡さんはこれまでの研究で得た知識や当時の歴史背景などを基に考察。考えられる城の姿をCGで再現した。城を治めた武士の家紋などとともにデザインし、御城印を完成させた。

 同社によると、寺社の御朱印のように人気の御城印は全国に1500カ所以上で展開されているが、「CGで再現した城のデザインをあしらったものはない」とする。

 CG御城印ははがき大で、1枚300円。同旅館のロビーで販売している。本岡さんによると「この辺りの田園風景はそれほど変わっていない」といい、CGに描かれたデザインと重ね合わせると「当時を思い浮かべて楽しむことができる」とアピール。館内にはCGパネルや解説もある。

 「私を含め、加古川市や周辺住民に長年愛されてきた旅館。その魅力を掘り起こし、発信する手伝いができてうれしい」と本岡さん。同旅館支配人の纐纈(こうけつ)茂樹さん(58)は「城跡にある価値を再認識した。今後は周辺の城跡の地域とも連携したい」と意気込む。

 JR加古川線厄神駅からタクシーで約5分。飲食のみや日帰り入浴も可能。みとろ荘TEL079.428.2004

【井ノ口城】室町時代、志方城主の次男の孫次郎家金が城主であったと伝わる。その後、依藤氏の居城となり、1578(天正6)年の三木合戦では別所氏についたため、敗戦とともに歴史からその名を消した。「みとろ荘」の場所には幅、奥行きが各26間(46.8メートル)の本丸があったという。

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