初めての景色を

　辞書で引いたら〈確かだと思ってそれに従うこと/まちがいないと見込むこと〉とあるから、なるほどその通りだ。将棋の対局者心理を表現する言葉の一つに「信用」がある▲例えば－。トップ棋士の指した疑問手に対戦相手が考える。あんなに強いあの人がこう指すのだ、きっとこの先に自分には見えない詰みや寄せがあるのだろう…そうやって読みに“雑音”が入ってしまう。これが「信用」の典型例▲それになぞらえて言うなら、佐々木大地七段は藤井聡太七冠を決して無条件には信用していなかった－ということになりそうだ。最終盤に訪れた一瞬の好機を見逃さず、秒読みに追われながら絶妙手を放った▲挑戦者の佐々木さんが初勝利を挙げ、星が1勝1敗のタイに戻った棋聖戦5番勝負は舞台を静岡県に移してきょう第3局、どちらが勝っても「リーチ」がかかる▲ところで、藤井さんが過去15回登場したタイトル戦でまだ敗退を経験していないことはよく知られているが、改めて調べてみると、3局目以降の星勘定で相手に先行されたことさえ実は一度もない。番勝負がフルセットに持ち込まれたのも2年前の一度だけ▲抜群の強さで夢の全冠制覇に突き進む七冠。佐々木さんは“初めての景色”を突き付けられるだろうか。勝負が佳境に差しかかる。（智）