被爆者運動の役割、意義明らかに 資料や証言収集が本格化 長崎の研究者らのグループ

段ボールやコンテナに詰め込まれた内田伯さんの資料を、活動内容ごとに分類する研究メンバー=長崎市目覚町、長崎の証言の会事務所

 戦後の長崎で続く核兵器廃絶運動や被爆証言活動などの被爆者運動。地元研究者らのグループが、その歴史的な役割や意義を明らかにしようと、被爆者団体や個人が所有する活動資料の収集、整理を進めている。6月から研究を本格化させ、関係者へのヒアリングと併せて分析する。「記録」と「記憶」の両面から「長崎の現在地を確かめ、『被爆者なき時代』を前に継承や研究のステップをつくりたい」としている。
 研究メンバーは「長崎原爆の戦後史をのこす会」の新木武志代表(63)や「長崎の証言の会」の山口響編集長(47)、長崎総合科学大長崎平和文化研究所の木永勝也客員研究員(66)ら6人。継続的に原爆関連資料、証言の掘り起こしや保存などに取り組んできた。本年度から3年間は国の科学研究費補助金(科研費)を受け、被爆80年となる最終年度に成果を書籍化するという。
 注目の一つが2020年に亡くなった被爆者、内田伯さん=享年(90)=が残した資料群だ。内田さんは戦後、爆心地周辺の町並みを地図上に復元する市民運動や、旧城山国民学校の被爆校舎保存運動に尽力。証言の会代表委員も務めた。その過程で集められた資料は「戦後の被爆者の歩みを象徴する資料」。遺族から譲り受け、長崎市内の証言の会事務所で保管している。
 6月下旬、研究メンバーは内田さんの資料整理に着手した。計四つの段ボールやコンテナに詰め込まれた資料を、活動内容ごとに大まかに分類。復元図の制作過程とみられる手描きの地図やメモ、証言の会の活動記録などが残されており、今後スキャンしてデータ化した上で詳しく分析する。
 研究では、被爆者団体資料のデータ化や目録作りも進める。6月には長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)が所有する会議資料や日誌などのデータ化を開始。県立長崎図書館郷土資料センターに保存されている県被爆者手帳友愛会(昨年解散)の資料の分析なども今後行う。各団体の歴史に加え、原水爆禁止運動や被爆体験者救済運動などで団体が果たした役割などを明らかにする「基礎資料」として活用していく考えだ。
 被爆者の平均年齢は85歳に達し、近年は被爆者団体の幹部が亡くなることも続いている。何もしなければ、自宅や事務所などに残された資料が捨てられる恐れがある。研究メンバーは団体や個人が所有する資料の提供を呼びかけており、「8月9日の体験にとどまらず、戦後を生きた被爆者が何を考え、どう生きてきたのかという『痕跡』を後世に残したい。今回の研究が、被爆100年を過ぎても『原爆被害の実相』を伝えていく蓄積の一つになれば」としている。

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