社説:電動ボード 安全確保に懸念消えぬ

 電動キックボードの新たな制度が今月から始まった。

 最高時速20キロ以下など一定の条件を満たしたものは、自転車とほぼ同様の交通ルールが適用されるようになった。16歳以上なら運転免許がなくても運転でき、ヘルメット着用は努力義務に緩和された。

 コンパクトで小回りが利き、環境負荷も少ない手軽な移動の足として普及を目指すようだ。

 だが、事故の増加や交通マナーの逸脱など懸念が多い。安全に利用するためのルールの周知、徹底が欠かせない。

 1日に施行された改正道交法では、最高速度や「長さ190センチで幅60センチ」以下などの要件を満たした電動キックボードは、「特定小型原動機付き自転車」に分類される。原則として車道の左端や自転車専用通行帯を走行するが、最高速度を6キロ以下に設定するなどすれば歩道も通行できる。

 地方の公共交通の縮小や人手不足を背景に、徒歩の周遊が難しい観光地での利用や、市街地の近距離移動などで、政府は活用を見込んでいる。

 問題なのは交通事故の多発だ。警察庁によると、人身事故は2020年1月から今年5月までに14都府県で88件発生し、衝突した歩行者を含め91人が負傷した。昨年9月には東京で男性が車止めに衝突し死亡する事故も起きている。

 京都市内では6月まで民間事業者が実証実験を行っており、21年9月~今年4月に酒気帯び運転や信号無視などの道交法違反の摘発は68件に上った。

 新制度では運転方法や交通ルールを習得しなくても、利用できることになる。

 関係省庁と事業者のガイドラインでは、販売やシェアリング(貸し出し)の事業者は利用者にルールを説明した動画の視聴や理解度テストを課し、身分証などで年齢を確認するよう求めている。

 車やバイクの免許を所持していない人は、交通ルールを学ぶ機会がなく、知らないことが多い。土地勘のない観光客や外国人らにも合わせた丁寧な講習や、ヘルメットの同時貸し出しなどで、いかに実効性を高めるかが問われる。

 先行して積極導入を進めていたフランスでは、事故の多発を受けて今年3月、運転可能な年齢を12歳から14歳に引き上げ、2人乗りなどの違反行為に科す罰金を増額する方針を示した。

 日本も今後の利用状況を踏まえ、規制や罰則の在り方を適宜見直していくべきだろう。

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