どっちつかずの指針

 あれこれ話し合って結論がまとまることを「話が煮詰まる」というが、「行き詰まる」とごっちゃになることがある。「勉強が煮詰まつてますと泣く子あり まづ〈煮詰まる〉を辞書に引け君」寺井淳▲煮えて水分がなくなるのも「煮詰まる」という。宿題に追われる「君」の頭の中が「煮えた鍋」だとすれば「勉強が煮詰まつてます」も、まんざら誤用とは思えない▲遠い遠い昔、夏休みの終わり頃を思い起こせば、宿題の山を前にして途方に暮れたわが身と「君」とが重なってくる。今の子どもはどうだろう。夏休みを前に文部科学省は、人工知能(AI)の活用について小中高校向けの指針を示した▲最近よく見聞きする「チャットGPT」は、画面に問題を打ち込めば、たちどころに答えを示す。夏休みの宿題も、お任せすればたちまち裁き、子どもが途方に暮れることもない。半面、考える機会は減る▲思考力を育むのをAIが阻む、と活用に慎重な意見がある。新技術を使う力を育てるべきだ、という積極論もある。指針は文科省からも「どっちつかず」の声が漏れるほど、両論に気を配った中身になった▲焦ってまとめた結果らしいが、指針が「どっちつかず」では教育現場をかえって惑わせないか。話が煮詰まるよう心を尽くす。国はそういう宿題を負う。(徹)

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