家出して遠い福井へ…断崖に座り込んだ中学2年の女の子 泣きながら携帯電話、所持金200円【東尋坊の現場から】

福井県坂井市にある東尋坊

福井県坂井市にある観光名所、東尋坊。ここ約3年間コロナ禍により観光客も激減しましたが、ようやく観光客も戻って来た感がしています。自殺防止のため私たちは毎日岩場をパトロールしていますが、東尋坊に訪れる自殺企図者についても然り。4月中は一人も遭遇者はいませんでしたが、6月に入って一挙に6人もの自殺企図者と遭遇しました。 

6月18日(日)午後6時ごろの事です。観光客もまばらで数組の家族連れが岩場を散策していました。そんな風景の中、一人の若い女性が岩場に座り込み、携帯をいじっていたのです。一見して幼い姿。彼女がいたのは日本海に突き出ている海抜約10メートルある岩場の最先端でした。私は遊歩道に立ち止まり、100mほど離れたところから双眼鏡でその姿を眺めていました。

その女性に対し、その場所にいた観光客である20代の若いカップルが声掛けをしていましたが直ぐ離れて行きましたが約10分後に再び40代のカップルが声掛けをした後、私の所まで戻ってきました。私はそのカップルに「先ほど声掛けをしていた女性は大丈夫でしたか…?」と尋ねたところ、「携帯で話をしていましたが、何故か泣き顔でした…」。

「ちょっとおかしかったですよ」と不穏な空気を感じ取った2人の言葉が気になり、その後の女性の行動を確認するため追尾しました。その女性は約300メートル離れた所にある商店街の駐車場まで戻り、ブロック段の所に座り込み、なおも携帯をいじり泣きながら会話を続けていました。そこで彼女に「何があったの…!」と声掛けし、説得してその携帯電話を受け取って相手の方と話をさせてもらいました。

「その娘はうちの娘です。いくら説得しても泣いて『死ぬ…!』と言うのです。また何処にいるのかを聞いても教えてくれません。お世話になりますがすぐ保護して、警察へ連れて行ってください」といわれたのです。携帯から聞こえてくる言葉は不安と焦りで張り詰めていました。私と女性のスタッフでその少女に詰め所がある相談所まで来てもらい話を聞いたところ、東海地方に住むまだ中学二年生の女の子でした。

泣きはらしながら女性の胸内を打ち明けてくれました。「明日からのテストを受けたく無く、学校へ行かないと母親に叱られるため自殺しに来ました。所持金は200円です。家には帰りたくない…!」と言うのです。母子家庭で二人兄妹の子どもさん。死にたいほど苦しいテストの受験生の気持ちを親ならきっと分かってくれると思いなだめました。実際に母親も「追い込みすぎた」と反省。警察に女性を保護してもらいましたが、嫌がらず少し気持ちが落ち着いたのか警察官に安心してついていきました。

こんな事があった翌日である6月19日(月)午後6時ころ、前日の女性と同じ場所で、若い女性が岩場に座り込んでいたため声掛けしたところ「死なせてください…!」と訴えてきました。泣く女性をなだめながら相談所で話を聴いたところ、女性は18歳。3人家族で全員が外国籍(人)で東海地方から来たそうです。芸術大学の1回生で勉強が難しく皆についていけず、退学したい事を両親に言っても学歴優先の国柄から承諾してなかったというのです。奨学金が800万円の借金に膨れ上がるため将来が見えなくなり、自殺をするために有り金全部を使い果たして高速バスで東尋坊に正午ごろ訪れたとのことでした。

「自殺をする場所を探し求めて決め、暗くなったら飛び込もうと思っていた所を見付けられてしまいました…」。そう言って泣き続けました。私たちは家族に連絡したところ、迎えに行きたいがお金が無いため福井までは行けず、心配なので家まで連れて来て欲しいと頼まれてしまい、一人で帰らす訳にはいかないと考えたため自家用車で自宅まで送り届けました。

この2人の女学生は、目前にある短期間の悩み事が解消しないため自殺まで考えてしまい行動に移してしまったのです。もし、私たちが見つけることができなかったら思うと、恐ろしく感じました。

若者は、目の前に立ちはだかるテストや勉強についていけないことに悩むのは当然のことです。ただ、その時の点数で貴方の全ての人格を評価できるものではなく、一過性のものです。本当の評価は、数年後に自ずと見えてくるものだと思います。どんな評価を受けようとも絶対に死ぬことではないです。苦しいと思ったときは、一人で悩まず、その気持ちを友達、先生、家族の人たちに相談するとその先が見えてきます。そして必ず気持ちが落ち着きます。その先にある希望と夢があります。生きていてこそです。

⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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