都心から一番近い蒸気機関車“SLパレオエクスプレス”旅が人気 客ら大勢、車内弁当も充実 必見ポイントは

今年で運行35周年を迎えた秩父鉄道のSLパレオエクスプレス=秩父市荒川白久の秩父鉄道三峰口駅

 「都心から一番近い蒸気機関車」として人気を集めている、秩父鉄道(本社・熊谷市)のSLパレオエクスプレスが1988年3月の運行開始から今年で35周年を迎えた。4月から今シーズンの運行を開始しており、秩父路を駆け抜けている。時代を超えて愛されているSLに体験乗車し、その魅力を体感した。

 6月中旬の午前10時すぎ、秩父鉄道熊谷駅のホームにSLパレオエクスプレスが入ってきた。黒い雄姿は迫力十分。大勢の乗客たちが記念撮影を終えた頃、「ブォー!」という大きな汽笛を響かせ、秩父市の三峰口駅に向けてゆっくりと動き出した。

 車窓を開けると、風が心地良く、煙の臭いも。新緑の風景を眺めていると、あちこちでSLに向かって手を振ってくれる人が。地域に愛されていることを実感。こちらも手を振り返しながら、何だかうれしい気持ちになった。

 その頃、客車からは見えないが、運転室では機関助手が石炭を釜の中にスコップでテンポよく入れている。三峰口駅到着後に話を聞くと、燃え盛る釜の中に満遍なく石炭を投入するのが基本で、熟練の技術が求められるそうだ。運転室は想像以上の暑さで、機関士2年目の田口光栄さん(40)は「風がある日はいいけど、夏は50度ぐらいになるので、本当に体力勝負。SLの運転には技術が必要なので、安全第一で、培われてきた運転技術を継承していきたい」と汗を拭った。

 話は走行中の客車に戻って、この日は県立皆野高校商品開発チームが開発した菓子「なんちゃって!? みそぽてサブレ」(10枚入り、税込み500円)を生徒たちが車内販売。食べてみると、甘じょっぱく、また手が伸びるおいしさ。3年生の小泉愛さん(17)は「緊張したけど、想像以上に買ってもらえた」と笑顔だった。

 長瀞駅に到着すると、4月にリニューアルしたSL車内弁当(要事前予約)が届けられた。沿線レストランの協力による「SL弁当開発プロジェクト」の第4弾。長瀞町のガーデンハウス有隣の「いろどりの秩父路」(1600円)だ。秩父産シイタケの肉詰めフライや、秩父味噌(みそ)を使った炙(あぶ)り豚味噌、秩父産ユズを使った鰆のゆず庵焼きなどが並ぶ。地場食材をふんだんに使った弁当にお腹も満足。

 終点の三峰口駅に到着。ここでは釜にたまった灰を捨てる排炭作業や、帰りの分の水を補給する給水作業などが行われる。SLが熊谷~三峰口駅間を1往復するのに必要な水は約9トンで、家庭用の風呂で約45杯分になるそうだ。

 ここでの見どころは、SL転車台公園での転車作業だ。電車は運転室が前後にあるが、SLは運転室が片方にしかないので方向転換をしないと戻れない。ターンテーブルとも呼ばれる転車台にSLを乗せ、熊谷方向へ180度回転させる様子は必見だ。

 帰りの車内ではSL関連の新商品を購入。プレミアムあんぱん、地ビール、ジェラートを味わいながら、SLの旅を締めくくった。

SL弁当「いろどりの秩父路」

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