元NHK記者と考える「公共放送」 NHKの意義と受信料の必要性を徹底討論!

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG(モニフラ)」(毎週月~金曜7:00~)。「激論サミット」のコーナーでは、“NHK受信料割増金の是非”について議論しました。

◆NHK受信料未払い者は未払い額の2倍請求される!?

4月からNHK受信料の新制度「NHK割増金」が導入されました。これは正当な理由なく受信料を支払わない世帯に対し、未払い額の2倍が求められるというものです。

その背景について、メディアコンサルタントの境治さんは「NHKは訪問要員の費用を削ってやめていこうというのがこの話の入り口。つまり、人によっていろいろな問題が起こったみたいだが、人ではなくて書類に変えて、問題を解消し、徴収率を上げたい」とNHKの思惑を解説します。

また、今回の背景にあるのは支払い率の低下です。NHKによると、約2割の人が受信料未払い。そのため、公平性を確保し、みんなに納得して支払ってもらえるよう望んでいます。

一方、街頭で話を聞いてみると「NHKは観ないので強制的にお金を取るのはどうなのか」(37歳 男性・会社員)、「2倍の請求がされるのであれば、なおさら払いたくないのでは」(19歳 男性・学生)といった意見がありました。

まずはスタジオで割増金の是非を問うと、犯罪コメンテーターの秋山博康さんは「賛成」。元NHK報道記者でスローニュース プロデューサーの熊田安伸さんは賛否熟考中で、それ以外の元NHK職員でもあるキャスターの堀潤、株式会社POTETO Media代表取締役の古井康介さん、経済ジャーナリストの荻原博子さんは「反対」。

唯一「賛成」の秋山さんは、「42年間警察として法的根拠に基づいて職務を行っていた。だから、やはり放送法に違反するのはいけない。今までの職業からして、賛成と言わざるを得ない」と賛成の理由に元警察官としての矜持をあげます。

対して、「反対」の荻原さんは「災害時や選挙の際はNHKを観る。デタラメなことをあまり言わないし、信頼性が高い。そういう意味では大切なメディア」とNHKを称える一方で、「(未払い者に)強制的に払えということは簡単だが、その人たちがなぜ払わないのか(を考えるべき)。人間は価値があると思ったらお金を払うし、応援してくれる。その応援が見えないのが今のNHK。応援が見えるようになったら私も"賛成”する」と私見を述べます。

古井さんは「反対」ではあるものの、悩ましい部分もあるとし「約8割の人が真面目に払っている、その人たちからすれば払えよと思うのはわかる」と一定の理解を示しながらも、若者をはじめ多くの人が観ているサブスクや動画サイトの視聴料に比べてNHKの受信料は格段に高く、そこがどうしても引っかかるといいます。

堀のNHK時代の先輩でもある熊田さんは若干「反対」。なぜ明言しないかといえば、秋山さんの言うように公平負担の原則に基づけば割増金は妥当だから。そう説明した上で、NHKの内情について語り始めます。

NHKは訪問員などの費用に現状305億円かけており、それをいかに減らせるかが至上命題だとか。そして、「国民から預かった受信料の節約は大事なことで、NHKは訪問員をやめるなど制度をきつくすることでみんなが自動的に払ってくれるように受信料制度を変える方向を選択した。それは一定程度理解できるし、法的には理にかなっている」と斟酌しつつも、「NHKがわかっていないのは、制度が厳しくなったらやめる人もいる。他に情報を享受するものがあり、そっちに走ってしまう人もいる」と指摘。

堀は「今はいろいろなインターネットメディアがあり、ネットメディアの最大の強みはこっち(受け手)からアクセスできること」と時代の変化に言及し「受信料の時代ではなく、使用料にすればいい」と提案。アーカイブは無料で解放し、NHKのスタジオも貸し出しするなど「NHKをみんなが使える公共財にすればいい」と話すと、スタジオからは拍手が巻き起こっていました。

◆良質な情報を得るためにも受信料は必要!?

2021年度のNHKの収入の内訳を見てみると、事業収入7,009億円のうち約97%の6,801億円が受信料収入。その他、コンテンツ二次利用など副次収入が66億円で、繰越金は2,231億円となっています。収入源の大部分を占める受信料の意義について、NHKは事業運営の自主性・自立性を保障するものとしています。

受信料の意義に関して、熊田さんは「公共メディアは今の時代でいえば"インフラ”。水道などと一緒。そこに毒が混じってはいけない、安全な情報を流さなければいけない。つまり情報のセーフティネット。誰もが良質な情報からこぼれ落ちないようにするためにみんなで負担しているということ」と独自の見解を示すと、堀は「安心感を維持するための必要なコスト」と頷きながらも、「それが今、この時代に適正なのか」と疑問を呈します。

古井さんは良質な情報源の必要性には共感するものの、有事の際に最初に見るのはNHKではなくTwitterだとし、「情報にアクセスする担保性が果たしてNHKでいいのか」と言及。さらに、テレビという媒体に関して「僕らはテレビを観るためにお金を払っている。NHKだけでなく(受信料の一部が)民放にいっても僕はいいと思う」と新たな見解を示します。

Twitterを情報源とする意見に対し、荻原さんは「高齢者はTwitterを使えない」と反論。「若い人はTwitterでいいが、高齢者は何かあればNHKを観る。そこで信頼できる情報が流れていないと(有事の際に)どこを開けばいいのかわからなくなってしまう」と案じます。

受信料とメディアの関係について、前出の境さんは「受信料が必要かと言い始めたら、今の20代・30代は『必要ない』という結論しか出ないと思う」と現状を推察する一方で、「しかし、よくよく考えるとNHKに限らず良質な情報を伝えてくれるシステムは逆に今後ますます重要になる」と指摘。なぜなら、現代社会ではフェイクニュースなどが氾濫し、どの情報を見ればいいのかわからないから。総じて、境さんは「NHKや他のテレビ局がなくて、ちゃんとした(良質な)情報が得られるのか、みんな考えなければいけない」と語ります。

なお、海外の公共放送の多くも受信料が財源の多くを占めているのが現状です。なかでも、ドイツやフランスは強制的に受信料を徴収し、支払わない場合は罰則もあります。イギリスも罰則があるものの、観ていないのに払うのは不公平という声があり、現在は受信料一律徴収の廃止を検討しているとか。

◆今こそ誰もが参画できるメディアを作り上げるべき

最後に、今回の議論を踏まえ、それぞれ公共放送の今後のあり方を発表。まず、荻原さんは「(NHKは)私たちの公共料金で支えられているわけだから、国・政府寄りではなく、自分たちの主張が通せる放送メディアであってほしい。"公正な情報のセーフティネットであれ”」と訴えます。

続いて、秋山さんは"放送無料・ネット配信有料”を切望。「NHKも広告費を取り入れ、放送は無料に。ネット配信は有料にしたらいい。平等にすべき」と自身の考えを述べます。

古井さんは、今はさまざまなメディアが生まれ、さまざまな情報の取り方があるため「どんな公共放送がいいのか、NHKの人たちが考えていただきたい。"時代を踏まえて1回そもそも論から見直す議論を”」と望みます。

熊田さんは「今、必要なのは良質な情報を流すもので、そのためにはNHKがその役割を担えるのかということから議論しなくてはならない」と指摘し、"NHKと共同通信を解体し、新公共メディアを”と大胆な案を提示。「(NHKと共同通信の)素晴らしいリソースをひとつにして新しい公共メディアを作り、放送受信料ではなく、これだったら(受信料を)払っていいというものを国民みんなでイチから作り上げればいい」と力説します。

キャスターの豊崎由里絵から「実現可能なのか?」と問われると、熊田さんは「可能性があるなしではなく、こうしないとみんな納得して受信料を払わないと思う。良質な情報をどう送るか、そのためにはネットもテレビも関係ない。みんなが納得して使えるものをどう作るかが大事」と力を込めます。

そんな熊田さんの意見に大きく共感していた堀は、キーワードに"無血開城”を挙げ、前述の通り放送センターの一般解放、さらには人事権の解放も熱望。「NHKの会長や経営委員会は政府・国が主導している。我々が受信料を払っているのに人事権がない。であれば組織を作り直し、気持ちよくみんなが参画できるメディアを作ればいい」と主張していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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