ミゲル、心の旅

 先月、諫早市多良見町でシンポジウム「千々石ミゲルの“心の旅”を探る」が開かれた。多良見はミゲル夫妻の墓所がある臨終の地。会場は200人超の参加者で埋まり、歴史ファンの熱気が漂った▲16世紀に欧州を訪問した4人の天正遣欧使節のうち、ミゲルは唯一、キリスト教の信仰を棄(す)てたとされてきた。だが墓所の発掘調査では首掛け状のキリシタン信仰具が妻の墓から見つかった。棄教(ききょう)説は揺らぐ▲ミゲルがカトリック修道会のイエズス会を脱会したのは事実だ。墓所を調査した大石一久氏はシンポジウムの講演で、寺や神社を破壊するなど他宗教を迫害したり、日本人を蔑視したりと、当時の修道会による日本布教の在り方にミゲルが反発した、との見解を示した▲ローマ教皇に会った誇り、修道会への失望-。理想と現実のはざまでミゲルの魂は揺れ動いたのか▲シンポジウムでは、神道、仏教、カトリック、プロテスタントの宗教家が肩を並べて意見を述べた。それを聴きつつ、ミゲルが願ったのは、信仰が違ってもそれぞれを尊重する世界だったのではないか、と思えてきた▲ミゲルがついのすみかとしたのは、禁教令下でキリシタンがひそかに信仰を続けていた多良見・伊木力地区だった。そこは彼の「心の旅」の終着駅でもあったのだろう。(潤)

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