口の中が幸せすぎるよ…!【白金】のカヌレ専門店があまりにウマくて感動した

【LE TREIZE】 LE TREIZEのオーナーシェフ、戸谷尚弘さん

戸谷尚弘シェフ。この人の名を知らなくてもバスクチーズケーキを日本中に広めた人といえばご存知かもしれない。

2015年にフランスでの修業後、ガトーバスクやフィナンシェを作る洋菓店『MAISON D’AHNI Shirokane(メゾン・ダーニ シロカネ)』を白金にオープン。

2018年にはスペインのバスクチーズケーキ専門店『GAZTA(ガスタ)』を開業するなど、白金を洋菓子の街として知らしめた。

そして今回、カヌレ専門店『LE TREIZE(ル トレーズ)』を白金にオープンした。

戸谷シェフというとバスクチーズケーキに代表されるように、スペインとフランスの国境に位置するバスク地方のお菓子が専門だと思っていた。

なぜボルドーの伝統菓子のカヌレを焼くことにしたのか。

【LE TREIZE】

「パリで修業中、ボルドーに本店があり、パリに支店があった『ルモワン』というパティスリーのカヌレを買っていました。そのカヌレが忘れられないぐらいおいしかったんです。その後、京都の『カヌレ』で食べたカヌレが、これまたおいしくて(笑)」

京都の『カヌレ』でカヌレを焼く技術を教えてもらい、それを戸谷流にアレンジし、『ル トレーズ』を開業したというのだ。

【LE TREIZE】

オープン2週間後、『ル トレーズ』を初訪問。

カヌレ好きなので我慢できず、店の外で賞味させてもらった。

戸谷シェフの「カヌレ ド ボルドー」(400円/以下すべて税込)は皮が薄く、芯がやや硬いカスタードクリームのようだった。

皮が厚くて、芯がモチモチのカヌレは多いのだけれど、これまで食べてきたものと真逆だった。

カヌレを焼く厨房を見学させてもらった。

おいそうな香りがするカヌレを焼く厨房に初潜入

【LE TREIZE】 カウンターの上にカヌレ型がたくさん並んでいる

「カヌレ」は溝があるという意味。

戸谷シェフはギザギザの溝がある銅製のカヌレ型を使っていた。シリコン製の型を使うシェフもいるが、銅型のほうが熱伝導がよいことから戸谷シェフは銅型を選んだ。

【LE TREIZE】 蜜蝋(右)をカヌレ型と一緒に熱していた

その銅型に熱した蜜蝋を注ぐことからカヌレ作りがはじまる。

なぜ蜜蝋を使うのかわからないが、カヌレ発祥のボルドーでは蜜蝋をぬった型で焼くレシピを継承している。

【LE TREIZE】 蜜蝋をぬったカヌレ型
【LE TREIZE】 蜜蝋を見るのも、それをぬったカヌレ型を見るのも初めて

私はあちこちのカヌレ(国産)を食べてきたが、製造現場を見るのは初めて。

【LE TREIZE】 オーブンで熱したカヌレ型に、熱した蜜蝋を注いでいく

もちろん蜜蝋を見るのも初体験。その名のとおりハチミツとローソクのような香りがした。

これに卵黄や牛乳、フランス産小麦、フランス産ブラウンシュガー、ラム酒などで作った生地を注ぐわけだが、その前に生地を24時間寝かしているというのだ。

「熟成させることでグルテンが切れてモチモチ感がなくなります」

気が遠くなるぐらい1個1個丁寧に作っていた

生地を注いだ型をオーブンで焼くこと約1時間半。

【LE TREIZE】 オーブンで焼いていたカヌレをおもむろに取り出したかと思うと……

この間パティシエは暇を持て余していたわけではなかった。

「焼いていると生地が膨らんできます。生地がなじむように、カヌレ型をひとつひとつ天板で叩きます」

焼きはじめてから20分後と、その15分後に再び型を叩く。その後の状態を見極め、もう一度やることもあるそうだ。

「手がかかるからこそ可愛いんです」

【LE TREIZE】 焼き上がったカヌレをひとつひとつ型からはずしていく
【LE TREIZE】 焼き上がったばかりのカヌレ。軍手を3枚重ねでないとさわれないぐらい高温だそうだ

焼き上がったカヌレを1個1個型からはずしていく。

厨房にはラム酒というか、カヌレ特有の芳しい香りがたちのぼっていた。

ヘーゼルナッツやシナモンを使ったカヌレも

【LE TREIZE】 左からカヌレ ド ボルドー、ショコラノワゼッティーヌ、カネル

『ル トレーズ』では「カヌレ ド ボルドー」の他、「ショコラノワゼッティーヌ」(450円)と「カネル」(420円)の、計3種類のカヌレを作っている。

【LE TREIZE】 ショコラノワゼッティーヌに使っているピエモンテ産ヘーゼルナッツ

ピエモンテ産ヘーゼルナッツとフランス産ミルクチョコレートを入れて焼いたのが、「ショコラ ノワゼッティーヌ」だ。

「生地をある程度焼き上げた後、細かく砕いたヘーゼルナッツとミルクチョコレートを入れて、それぞれの味と風味が生きるように作っています」

戸谷シェフ自身、ヘーゼルナッツとチョコレートの香り豊かなこのカヌレが大好きだそうだ。

ローストしたヘーゼルナッツがカリカリで香ばしい。コリコリカリカリ。噛むときの音が愉快だ。

「『カネル』はオーガニックのシナモンを使っていて、甘さとスパイシーさもあります」

シナモンの香りがするカヌレは初体験。カヌレ好きなら食べてみたい。

【LE TREIZE】 カヌレ ド ボルドー(左)と、フィナンシェ デラブル

カウンターには3種類のカヌレの他、「フィナンシェ デラブル」(350円)が並んでいる。

カヌレ専門店がなぜフィナンシェを焼くのか。

「フィナンシェを焼く理由をお伝えする前に、ボルドーでカヌレが誕生した経緯を説明させてください」

ボルドーは赤ワインの一大産地。その赤ワインの澱を除くために泡立てた卵白が使われていた。

卵黄が大量に残る。余った卵黄を活用するためにカヌレが誕生したと言われている。

【LE TREIZE】 カヌレには卵黄しか使わないため、卵白が余る。その卵白でフィナンシェを作ることに

一方、ワインを醸していない『ル トレーズ』では、カヌレを作ると卵白が余る。

残った卵白でフィナンシェを作ることにしたというのだ。

「パティシエには食材を余すことなく使う発想が求められます。バランス感覚というか、それがお菓子作りの基本ですね」

フィナンシェには、カナダ産メイプルシロップを使用。コクのある自然の甘みをもたせた。

クルミのような細長い形のピーカンナッツを散らすことで香ばしさを演出。

甘みがくどくないだけでなく、コリコリとしたピーカンナッツの歯ざわりもいい。

3種類のカヌレを食べ比べ、フィナンシェも味わうことでストーリーが完結するのも面白い。

【LE TREIZE】 ソフトクリームのコーンカップにカヌレがのっかっているのだと思っていたけど。じつはエッフェル塔だった

最後に『ル トレーズ』のマークについて戸谷シェフに話を聞いた。

ソフトクリームのコーンカップにカヌレがのっているのかと思ったらそうではなかった。

「エッフェル塔です。修業時代、カヌレを買っていたパリの『ルモワン』から見えたエッフェル塔が印象的でした。カヌレはボルドーの伝統菓子ですが、私にとってはパリの『ルモワン』なんです(笑)」

【LE TREIZE(ル トレーズ)】

住所/東京都港区白金1-2-1ザ・スカイ E104
電話/03-5447-0130
営業時間/9:00~19:00
定休日/月曜(祝日の場合翌日)
※電話で予約可

(うまいめし/ 中島 茂信)

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