「有害成分が約90%低減」は本当? 加熱式たばこのリスク、禁煙こつは

京都医療センター(京都市伏見区)

 たばこの害と禁煙について学ぶ京都医療センターのオンライン講演会(日本禁煙科学会と日本心血管協会共催)が、世界禁煙デー(5月31日)を記念して開かれ、喫煙と受動喫煙、加熱式たばこのリスクや、禁煙指導について医師らが解説した。

 同センター展開医療研究部の長谷川浩二部長(循環器外来・禁煙外来担当)は、喫煙の健康影響について説明した。「喫煙は日本人の死亡に関連する最大の原因」と指摘。心臓などの循環器や肺などの呼吸器の疾患、がんだけでなく、生活習慣病、低出生体重や不妊、乳幼児突然死症候群(SIDS)など、たばこに関連する疾患は多岐にわたっている。

 うつのリスクは喫煙者も受動喫煙者も高く、禁煙後に抑うつ状態が改善したとの研究結果を紹介した。

 受動喫煙による国内の死亡者は年間1万5千人と推定されている。受動喫煙防止を法律で定めると急性心筋梗塞や脳卒中などの発症が減ることを海外のデータで示し、「禁煙はエビデンス(科学的根拠)のある最もシンプルな治療法で、国民の健康と福祉に大きく寄与する」と強調した。

誤解生む表記

 静岡県立大薬学部の森本達也教授(内科学)は使用者が増えている加熱式たばこのリスクについて解説した。加熱式たばこのパンフレットに「有害成分が約90%低減」とあることについて、「健康被害が90%減るかのように誤解してしまう」と問題視。発がん物質のニトロソアミンは「10分の1でも十分に有害」といい、有害成分が90%カットされるのは一部成分のみであることも説明した。

 アメリカFDA諮問委員会の見解は「加熱式たばこは紙たばこにくらべて一部有害物質の暴露は少ないが健康被害をもたらす。疾病リスクが減るエビデンスはない」で、「加熱式たばこのパンフレットにも『病気になるリスクが減る』とは書かれていない」という。

 受動喫煙についても世界保健機関(WHO)などの見解を踏まえ「安全なレベルというものはない」と強調。受動喫煙者が暴露する有害物質が減っても健康被害が減るとは限らないとし、「加熱式たばこは受動喫煙も危険。きっぱり禁煙を」と強く求めた。

「楽しく」がコツ

 大阪商業大の東山明子教授(心理学)は喫煙者の心理を踏まえた「動機づけ声かけ法」を解説、「認める」「ほめる」「尋ねる」「伝える」「次につなげる」の「4A+A」で「自信を持って楽しく禁煙指導を」とアドバイスした。

 最後に、日本で初めて禁煙外来を開設するなど禁煙指導の第一人者である京都大医学研究科の高橋裕子特任教授が指導のポイントについて語った。喫煙者を減らすためには「入手困難」「環境整備」「禁煙支援」「教育啓発」が4本柱になるが、「私たちができるのは『入手困難』以外の三つ」とし、ピアサポート(支え合い活動)とコミュニティー形成で禁煙につなげる「禁煙マラソン」や、子どもたちへの禁煙教育など自身が進めた取り組みを振り返った。禁煙に同意しない喫煙者への働き掛けで大切なのは「『しなければ』を『したくてたまらない』『楽しくてたまらない』に変えること」といい、実際に禁煙した人たちの言葉を伝えるなどの進め方を説明した。

© 株式会社京都新聞社