声と手で歌う「ホワイトハンドコーラス」 難聴の少年が国際音楽祭に挑戦

調布国際音楽祭。その音楽祭に今年初めてユニークな合唱隊が登場しました。声だけでなく、手を使って歌を表現する合唱隊に所属する1人の少年に密着しました。

クラシックを中心に50を超えるコンサートが行われた調布国際音楽祭。今年のテーマは、「One Melody for ALL」、=ひとつの音楽は障害や国籍など、垣根なくみんなのために奏でられるという意味が込められています。

この国際的な音楽祭に初めて出場したのが「ホワイトハンドコーラスNIPPON」です。合唱による”声隊”と、手話をベースにした手歌で歌う"サイン隊”が1つになってパフォーマンスを行います。

サイン隊で活動する菱沼悠太くん、小学2年生です。悠太くんは産まれた時の検査で重度の難聴と診断され、補聴器をつけてもほぼ聞こえない聴力でした。母親の見和さんは当時、大きな不安があったといいます。

菱沼見和さん:「全くどういう風に子育てしていいかが想像付かなくて。母親の声が届かないと笑うのかなと不安で」

悠太君は1歳の時、音を電気信号に変換し、神経を刺激して脳に信号を送る「人工内耳」の手術を受けました。今では、声による会話と手話の両方できるようになった悠太くん。そんな悠太くんが去年出会ったのが、ホワイトハンドコーラスです。

菱沼見和さん:「自分を表現するような経験をさせてあげたいというふうに思っている時に(ホワイトハンドコーラスを)知ったので、ぜひ参加してみたいと思い、1年前に始めた」

菱沼悠太くん:「みんなと一緒に笑顔で歌うのが大好きで。僕は楽しいと思う」

悠太くんの所属するサイン隊が大切にしているのは、手歌を自分たちで考え、話し合いながら作っていくプロセスです。見和さんは、その経験が彼の成長につながっていると話します。

菱沼見和さん:「悠太自身もいろいろな子の表現を得て、発表会ごとに悠太の中の表現力が高くなっているなと感じます」

手歌の練習に励む悠太くん。ホワイトボードにはある言葉が書かれていました。『できないは 超できるの第一歩』この言葉は、「にじふらい」という曲の1フレーズです。

ホワイトハンドコーラスの芸術監督・コロンえりかさんは、この曲には、子どもたちの思いが詰まっていると話します。

ホワイトハンドコーラスNIPPON芸術監督 コロンえりかさん:「『壁なんて最初からないんだ』私たちが思っていることとか、『できないかどうかじゃない、やりたいかどうかだ』という思いや、子どもたちの思いが一杯に詰まった私たちのオリジナルソングです」

悠太君:「大変だけど、みんなと一緒に頑張ろうの気持ちがたくさん心に集まってきています」

その思いを込めて悠太くんは舞台に臨みます。本番当日、少し緊張した面持ちの悠太くん。楽屋でのリハーサルは本番直前まで続きました。

コンサートを聞いた人は:「手歌は初めてでしたし、耳で届くものと視覚から届くものと両方合わせて心に響くものがありました」「私も真似してみたいなと思って、改めてよかったなと思いました」

ホワイトハンドコーラスは来年2月、国連ウィーン事務局で開催されるバリアフリーの世界会議で歌うことが決まりました。

菱沼悠太君:「外国に行くのは初めてなのでドキドキしています。(どんな気持ちを伝えたいですか?)ドキドキを伝えたい」

ホワイトハンドコーラスですが、もともと、1995年にベネズエラで誕生しました。日本では、2017年度から合唱隊を運営する団体と東京芸術劇場の共催事業として活動を行い、6歳~18歳まで100人近い子どもたちが参加しています。

音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサー鈴木優人さんもエールを送っていて、「感情豊かな時期だからこそ、音楽と一緒に豊かな時間を過ごしてもらい、一人ひとりが目指す自分の未来像に近づいてもらえたらうれしい」と話していました。

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