ナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描く超貴重ドキュメンタリー『刑法175条』限定上映&トークイベント開催決定!

2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞、2022年アカデミー賞 国際⻑編映画賞ショートリスト選出作品『大いなる自由』が、6月にオープンしたBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて7月7日(金)より公開されている。 Bunkamura初の配給作品となる本作は、戦後ドイツで男性同性愛を禁ずる「刑法175条」のもと、「愛する自由」を求め続けた男の20余年にもわたる闘いを描いた、静かな衝撃作だ。

映画『大いなる自由』より

この公開を記念し、2000年に制作されたドキュメンタリー映画『刑法175条』の限定上映が決定した。ナチ政権下で175条により約10万人が捕まったとされ、そのうち強制収容所に送られた1万~1.5万人のうち生存者はおよそ4,000人、映画制作時に生存が確認できたのはわずか10名に満たなかったという

(※)

。 同作は強制収容所に送られた同性愛者が辛うじて存命だったタイミングに撮られた貴重なドキュメンタリーで、貴重な記録映像、写真と共に、刑法175条によって迫害を受けたゲイ男性たちとひとりのレズビアンのインタビューによって歴史に隠された一面を暴き出す。

(※)劇中に登場するクラウス・ミュラー氏(アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館)の調べによるもの

監督は、『ハーヴェイ・ミルク』で1984年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したロブ・エプスタインと、映画史におけるLGBTQの描かれ方を検証するドキュメンタリー『セルロイド・クローゼット』をエプスタインと共同監督し、公私にわたるパートナーでもあるジェフリー・フリードマン。ナレーションは『アナザー・カントリー』に出演し、自身もゲイであることをカミングアウトしている俳優、ルパート・エヴェレット。インタビュアー兼アソシエイトプロデューサーでもあるホロコースト記念博物館のクラウス・ミュラーは現在配信中のNetflix映画『エルドラド:ナチスが憎んだ自由』の監修も務めている。 『大いなる自由』のセバスティアン・マイゼ監督はインタビューで「主人公ハンスの物語の出発点は、同性愛者の男性が連合国によって強制収容所から解放されたにもかかわらず、直接刑務所に移送され、刑法175条に基づいて残りの刑期を務めたという実話でした。ハンスは、罪もなく繰り返し刑務所へ送られ、存在を否定され、人間関係を壊され、国家の記録の中に消えていった無数の人たちであり、その人たちの運命そのものです」と語っているが、『刑法175条』は、ハンスと同じく強制収容所から刑務所に移送された人、凄まじい拷問の記憶を語る人、強制収容所にいたことを隠し、女性と結婚した人、奇跡のような経緯で難を逃れた人…癒えることのない傷を負いながらも生き抜いた人々の個人的な物語を通して、迫害の歴史を明らかにする。 2001年の山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション部門で上映され、以降数えるほどしか国内で上映されてこなかった『刑法175条』が東京で上映されるのは9年ぶり。『大いなる自由』で描かれた歴史をさらに深く知ることのできる絶好の機会、35mmプリントで3回のみの限定上映となる。 7月22日(土)にはジャーナリストで作家の北丸雄二、主にクィアの作家による作品の上映・発信を行なうノーマルスクリーンの秋田祥によるトークイベントを開催する。

『大いなる自由』公開記念『刑法175条』限定上映

日程:7月21日(金)・22日(土)・23日(日)連日18:00~ 会場:Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 料金:1500円

※『大いなる自由』チケット提示で1200円に

<トークイベント開催>

7月22日(土)18:00〜上映終了後 北丸雄二(ジャーナリスト/作家)、秋田祥(映像プログラマー )

『刑法175条』

ナチスによる迫害が、ユダヤ人だけではなく同性愛者にもおよんでいたことはあまり知られていない。この映画は同性愛者を差別するドイツの“刑法175条”によって迫害を受けたゲイ男性たちとひとりのレズビアンについて、歴史に隠された一面を聞き出している。ハインツは強制収容所での体験を告白し、フランス人ピエールは自分のボーイフレンドが虐殺されるのを目撃し、ユダヤ人のガドは地下抵抗組織の指導者としての経験を語る。 (アメリカ/1999年/81分/35mm/英語、ドイツ語、フランス語/カラー/1:1.85 )作品提供:認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭 監督・製作:ロブ・エプスタイン、ジェフリー・フリードマン/ナレーター:ルパート・エヴェレット/調査・アソシエートプロデューサー:クラウス・ミュラー

【監督のことば】

アメリカユダヤ委員会が1993年に行った調査によれば、ナチスが同性愛男性を見分けるための印としてピンクトライアングルを着けさせていたということはおろか、ナチス政権のもとでゲイが弾圧されていたことすら、知っているのはイギリスでは成人の約半数、アメリカではわずか4分の1だという。『刑法175条』では、これまで映画で扱われたことがなく、歴史の本ですらめったに言及しようとしなかった歴史に斬り込んでいった。何万人もの人々が迫害され殺害されたというのに、なぜ記録から抹殺され続けてきたのか? 私たちがこの問題に関心をいだいたのは、まずは私たち自身がゲイ男性でありユダヤ人でもあるから。私たちにとって、当時についての証言ができる人たちが生きている間にできる限りの記録を残しておくことは、切迫した必要性のあることだった。また、映画作家の立場からいえば、このテーマの曖昧さに魅かれた。虐待される同性愛者、同性愛のレジスタンス闘士、同性愛のナチス及びシンパが同時に存在していたのだ。また、ナチスは一貫して同性愛者を迫害していたが、一方で敵陣からは、ひとりのナチス高官が同性愛者であることを理由にナチス全体が同性愛の巣窟だというプロパガンダを流されてもいたのである。 ナチスの迫害から逃れたゲイはかなりの数にのぼったが、彼らはどうやって生き延びたのだろうか? 英雄と悪人の境目は何なのか?そして、どうして私たちは人間の経験にグレーゾーンがあることに不安になるのだろうか?

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