福井県の福井市消防局は、市内の消防署と分署に配備している救急車計9台と予備の救急車2台すべてに、心肺停止の患者に心臓マッサージと人工呼吸を同時に行う自動心肺蘇生器を導入している。救急隊員が離れていても、自動で絶え間なく心肺蘇生を施すことができる。
機器は医療機器販売「コーケンメディカル」(東京)の「クローバー3000」。アーチ状で、中心部から下に突き出たシリコンパットで胸を押し、機器から患者の口にホースを伸ばして酸素を送る。日本人の体形を考慮してつくられ、胸の厚さが12~28センチの人に対応。有効な心臓マッサージの国際基準の圧迫する深さ5センチ、1分間に100~120回を満たす。同消防局は2021年春、救急隊員への新型コロナウイルス感染防止のため導入した。
隊員は現場に到着すると、患者の意識や呼吸、心電図などを確認。専用担架にあおむけに乗せてクローバーを装着していく。装着されるまでは、別の隊員が心臓マッサージを行う。同消防局によると、装着までの時間は2、3分。胸部に外傷がある場合や、病院が近い場合などを除き、心肺停止の患者の9割ほどで装着しているという。
同消防局の現場出発から病院到着までの平均時間は9分14秒(22年)。有効な心臓マッサージを続けるのは2分が限界とされ、従来は隊員が交代しながら、患者に付きっきりで心臓マッサージを行っていた。
クローバー導入により、心臓マッサージに付きっきりだった隊員を別の処置にあてることが可能になった。狭い通路や階段を通る時も、心臓マッサージと人工呼吸を行えるようになった。福井市東消防署救急隊長の田中寛之さん(48)は「絶え間なく心肺蘇生できるのは、搬送者にとって大きい。隊員の負担も減った」と話していた。
福井県内では、鯖江・丹生消防組合と若狭消防組合もクローバー3000を一部の救急車に配備。ほかの6消防本部では、別の心臓マッサージのみ自動で行う機器を導入している。