「The Poll Winners」(1957年、コンテンポラリー・レコーズ) 名手3人、指折りの名演  平戸祐介のJAZZ COMBO・28

「The Poll Winners」のジャケット写真

 夏本番へ向け、みなさん体調はいかがでしょうか?やはり夏はさっぱりと爽やかな物が欲しくなりますよね。今回は耳から少しでも涼しくなってもらえるようなアルバムをご紹介します。
 1957年アメリカ西海岸を代表するレーベル、コンテンポラリー・レコーズからリリースされた「The Poll Winners」は、きっと爽やかな風を吹かせてくれる1枚だと思います。まずタイトルの「The Poll Winners」とは、当時の米ジャズ誌「ダウンビート」などの楽器別人気投票で各部門1位に輝いたギターのバーニー・ケッセル、ベースのレイ・ブラウンそしてドラムのシェリー・マンの3人によって結成されたバンド名でした。
 人気投票で1位に輝く、今が旬の面々が集まっているわけですから個性と個性のぶつかり合いのような作品かと思われるかもしれません。ですがジャケットの3人の満面の笑顔と比例するかのように、実にリラックスした軽快なジャズが存分に楽しめます。
 それは奇跡的にも3人の嗜好(しこう)や共演アーティストが重なり合っていたことにも起因します。また同時に3人ともスイングジャズに当時多大な影響を受けていたこと、オスカー・ピーターソン、ハンプトン・ホーズのような軽快にそして抜群にスイングするピアニストと普段から行動を共にしていたことが非常に大きかったと思います。
 だからこそ、人気投票の1位同士が共演しても音楽が見事に成立しているのだと思います。彼らはこのアルバムの後「The Poll Winners」名義で4枚の作品を残していることからも、相性は抜群だったと思われます。
 音質も非常に温かな感じです。基本的にケッセルが主導権を握りながらも、ブラウンの重心の低いベース、シェリー・マンの的確なサポートを得て、至極のスタンダートジャズを淡々と演奏する姿が捉えられています。ジャズ初心者の方々も楽しめる要素です。
 特に「サテンドール」は数多くの奏者が取り上げる名曲ですが、このアルバムに収録されているバージョンはジャズの歴史上、ベスト3に入る指折りの名演だと私は思います。「ジャズは技術だけではない、会話力だよ」と名手3人がいつもそっと声をかけてくれるようなこのアルバム。彼らの爽やかな笑顔と演奏を、この時期だからこそじっくりと楽しみたいと思います。(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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