【フィリピン】最低賃金、再び引き上げ[経済] 首都圏1日40ペソ、企業は警戒

街中のマーケットで売られる食料品などの価格は高騰している=7日、マニラ首都圏パサイ市(NNA撮影)

フィリピン政府は16日からマニラ首都圏の最低賃金を1日当たり610ペソ(約1,560円)に引き上げる。従来から同40ペソ上がり、上昇率は7.1%となる。長期的な物価高に苦しむ低所得層を支える狙いだが、最低賃金は昨年に約3年半ぶりに上昇したばかり。足元で落ち着き始めたインフレの再加速や人件費の負担が増す恐れがあり、企業の間で警戒感が強まりそうだ。

今回の賃上げは、首都圏の地域賃金生産性委員会(RTWPB)が6月下旬に承認した。非農業部門は1日当たり570ペソから同610ペソ、農業部門は533ペソから573ペソに上がる。生活必需品の価格上昇を理由にしている。その後の通達で、10人未満の小売り・サービス企業については9月13日までの約2カ月間は引き上げを見送ることができるとした。

国内最大の労働団体であるフィリピン労働組合会議(TUCP)は、最低賃金の引き上げについて「あまりに遅く、あまりに小さい」と批判した。労働生産性は過去約30年で着実に改善しているが、最低賃金の引き上げは遅々として進んでいないと指摘した。

ルイス・コラル副議長は「最低賃金労働者はインフレで1日当たり88ペソの購買力を失っており、引き上げ幅はこの半分にも満たない」と主張した。

独立系シンクタンクのIBON財団も、複数労組の連合体である「今こそ賃上げのための団結を!(The Unity for Wage Increase Now!=UWIN)」が1日当たり1,100ペソへの引き上げを求めていたことを引き合いにだし、今回の40ペソの引き上げは遠く及ばないと批判した。首都圏で5人家族が1日生活するのに必要な最低金額は1,160ペソだと試算している。

日系を含む外資企業の従業員は最低賃金を上回る給与水準が多く、短期的な影響はなさそうだ。ただ生産性の向上を伴わない賃上げが続けば、企業は長期的な事業戦略の修正が必要になる懸念がある。

人材仲介大手パーソル・フィリピンの関係者はNNAに対し「企業にとって人件費を相対的に抑えられることがフィリピン進出の利点になっていた。今後は優秀な人材の確保へ賃金水準の見直しを迫られる恐れがある」と説明した。

5月の失業率は4.3%と約18年ぶりの低水準となった。新型コロナウイルス禍から国内経済が回復する中で人手不足になっている。企業は生産性が向上していなくても賃金を上乗せして、人材を囲い込もうとしている。

フィリピン中央銀行は物価上昇が賃上げを誘発し、さらなる価格転嫁が相乗的に進む「二次的効果」に警戒感を示している。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.4%まで上昇ペースが鈍化したが、再び加速する懸念が出ている。

政府とは別に、議会は法律による最低賃金の引き上げに向けて審議している。ミグズ・ズビリ上院議長が1日当たり150ペソの引き上げ案を提出した。首都圏の賃上げを考慮して同100ペソに修正したが、最低賃金の上昇が今後さらに加速した場合、海外からの投資誘致を強化する政府は対策を求められる可能性がある。

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