手話教育守り続けた姿描く 映画「ヒゲの校長」全国で話題、京都・滋賀でロケ

「ヒゲの校長」のワンシーン。右が高橋潔役を務めた主演の尾中さん

 ろう学校で手話が禁じられていた戦前に、手話教育を守ろうとした教育者を主人公にした自主製作映画「ヒゲの校長」が、話題となって全国各地で上映されている。2022年10月の初公開から8カ月で上映回数は約90回に上った。撮影が滋賀県や京都府などで行われた作品で、監督は「手話に興味を持つきっかけになれば」としている。 

 ヒゲの校長は、大正末期から昭和初期が舞台。当時、ろう学校では口の動きで会話を理解する「口語」が推進され、手話による教育は否定されていた。一方で口話だけでは十分な教育は行えず、大阪の聾唖(ろうあ)学校の校長だった高橋潔氏が、それぞれの子どもに合った教育を目指し、手話教育を守り続けた姿を描く。

 京都を拠点に手話映画を手掛けるグループ「聾宝(ろうほう)手話映画」が製作した。高橋氏のことを知った主宰の谷進一さん(51)が企画し、監督を務めた。

 高橋潔役を務めた主演の尾中友哉さんは大津市出身で、両親がろう者だったため手話を母語として育ったという。また、当事者であるろう者や難聴者も多数出演している。1965年に始まったテレビドラマ「新選組血風録」で土方歳三を演じた俳優の栗塚旭さんが趣旨に賛同して脇を固める。

 撮影は高橋氏の妻が実際に暮らしていた野洲市の蓮照寺をはじめ、県内では滋賀大(彦根市)やヴォーリズ学園(近江八幡市)などで行われた。

 2021年9月に始まった撮影は新型コロナウイルスの影響で難航したが、2022年10月に初上映された。その後話題となり、今年6月18日までに北海道から九州までの約50会場で90回ほど上映された。4月には沖縄国際映画祭に招待された。今後も京都市や宮崎県、愛知県など20会場での上映が控えている。

 谷さんは「高橋さんは、約100年前のあの時代にそれぞれの子どもに合った教育をしようとしていた。共生、多様性という今にもつながる考え方だ。高橋さんという人がいたことを知ってもらいたい」と話す。

 映画は120分で、字幕付き。上映会の詳細や今後の予定はネットで「ヒゲの校長 上映予定」と検索して出てくる専用ホームページで確認できる。

2021年12月に野洲市内で行われた撮影風景。右が監督の谷さん

© 株式会社京都新聞社