◆横浜平沼6-10鶴嶺
「最後の打席になるかもしれない」。4点を追う九回無死、横浜平沼の主将山形は力いっぱいフルスイングした。白球は左中間に伸び、一塁ベースを蹴る。「どうしたらチームを鼓舞できるか」。春先に自身がテレビで興奮したあのシーンを思い返した。
走りながらヘルメットを豪快に取る。二塁ベースに到達すると、ベンチに向かって両手を3度振り上げた。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表の大谷翔平(エンゼルス)が準決勝で見せたアクションをまねて見せた。
「ベンチもすごく盛り上がってくれた」と山形。その後、チームメートがつないで自ら本塁に帰ってきた。七回には8点差でコールド負けも頭をよぎったが、一挙4得点と怒濤(どとう)の追い上げで阻止。「最後にみんなで力を出せた。負けたけど、僕としては悔いなく終われた」と笑った。
苦しい1年だった。昨秋に部員16人でスタートし、今春には勉学に専念するため、3年の3人が相次いで退部。「4、5月の練習試合は全然勝てなかった」と振り返る。
しかし、今夏は5大会ぶりの初戦白星を飾った。「相手の鶴嶺高校の応援もすごかった。僕はすごく楽しかった」と山形。8人で再始動を切る後輩たちへエールを送る。
「絶対つらい時期は来ると思うけど、勝ち負けより野球を続けることに意味がある。僕はこうして終われてすっきりしているから。最後に長打を打てたのも野球の神様が見ていてくれたのかな」