【全曲解説】漫画『気になってる人が男じゃなかった』プレイリスト収録曲

(C) Arai Sumiko / KADOKAWA

2023年4月19日に第1巻が発売され、単行本発売直後に重版となっている新井すみこ氏による漫画『気になってる人が男じゃなかった』。先日発表された「次にくるマンガ大賞 2023」の「WEBマンガ部門」にもノミネートされ、さらに話題となっている。

この漫画に登場する楽曲を収めた公式プレイリストは単行本の発売と同時に公開されると、Apple Musicのプレイリストランキングで30位、Spotifyでは7月1日現在で4.3万いいねを超え、漫画とともにプレイリストも人気となっている。

今回は7月14日現在のプレイリスト収録楽曲の全曲解説を掲載。

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1. ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」

主人公の「あや」と「みつき」の二人が好きであり二人が会話するきっかけとなった第1話のCDショップでかかっていたり、同じく1話の最後のコマで「みつき」が教室で聴いていた曲が「Smells Like Teen Spirit」。「みつき」がよく来ているフーディー、「みつき」の叔父が憧れて買ったセーターも所有している描写も描かれており、2021年7月にTwitterで投稿された構想段階のイラストにも登場していることからこの漫画のテーマソングといっても過言ではないであろう。

楽曲自体は1991年に発売され、赤ちゃんがプールで泳ぐジャケット写真が印象的なニルヴァーナのセカンド・アルバム『Nevermind』のリードシングル。タイトルは直訳すると「青春の精神のような香り」となるが、実際はそうではなく、これはニルヴァーナのヴォーカル、カート・コバーンが言われた言葉からとってつけられた。

「Teen Spirit」はアメリカの若者が使用するデオドラントの商品名であり(日本で言うと「8×4」のような)のことで、カートのアパートでのパーティの際、彼の友人のキャスリーン・ハンナがアパートの壁に書いた「カートってティーン・スピリットみたいな香りがする」という有名なフレーズに遡る。これは、ハンナはその日スーパーで見かけたデオドラントを冗談めかして引き合いに出したものだった。ハンナはその時こう言っている。

「だいたい、誰がデオドラントに“ティーン・スピリット”、なんて名前付けんの? ティーン・スピリットの香りって何? ロッカー・ルームの匂い? マリファナと汗が混じった匂い? それともパーティで自分の髪の毛にゲロしちゃった時の臭い?」

遊び心満点でイジられていたのだが、その名前の由来を知らなかったカートは、壁の落書きを別の意味に解釈したのだった。「ほめ言葉だと思ったんだ」と彼は、疎外感に苛まれる者たちへの賛歌を盛り上げる反抗的なエネルギーを呼び起こすために、このフレーズを一年後に曲のタイトルに選んだと語っている。

 2. フー・ファイターズ「The Pretender」

第3話で「みつき」が自分の正体がバレそうになった時に、ドギマギしながら早口でオタク語りするときにフー・ファイターズが登場。その時に「あや」に貸すCDは、フー・ファイターズではなく、メンバーのデイヴ・グロールが制作/主演したホラー・コメディ映画『Studio 666』に登場する架空のメタル・バンド、DREAM WIDOWのアルバム『Dream Widow』というところが「みつき」の本気のファン度が伝わってくる演出にもなっている。

フー・ファイターズは、ニルヴァーナのカート・コバーンが亡くなった後、バンドのドラマーだったデイヴ・グロールが結成したバンド。「The Pretender」は、2007年のアルバム『Echoes, Silence, Patience & Grace.』のリード曲で、タイトルは「人々を欺く者」という意味。デイヴは政治的なものであると発言している。

 3. ロイヤル・ブラッド「How Did We Get So Dark?」

ロイヤル・ブラッドはイングランド出身の二人組のロック・バンド。ヴォーカル/ベースのマイク・カーとドラムのベン・サッチャーというギター・レスの組み合わせながら、デビュー当時から特にそのライヴが注目を浴び、デビュー・シングルとアルバムはともにUK1位を獲得している。

「How Did We Get So Dark?」は2017年のセカンド・アルバムのタイトル・トラック。マイク・カーの人生で起こった出来事から書かれたものと本人が語っているが、やたらウサギが出てくるミュージック・ビデオのコンセプトは「ウサギが貴重品となり、人間がそれを手に入れるために戦うディストピア的未来」を描いたものだ。

 4. DIIV「Doused」

DIIVは2011年に結成したニューヨーク出身のインディー・ロックバンドで、グループ名の読み方はダイヴ。元々は「Dive」という綴りだったが、同名バンドがいたためにDIIVという綴りとなった。

「Doused」は2012年に発売されたデビュー・アルバムの収録曲。人生の何か、おそらく恋愛関係から逃げ出した男が、今になって行き過ぎたことに気づくという歌詞の内容となっている。

 5. ウィーザー「Say It Ain’t So」

ウィーザーは1992年にロサンゼルスで結成されたバンド。ニルヴァーナに代表されるグランジ・ブームの最中に“オタク”なメンバーによるギター・ポップが評価され、今も愛さ続けている。ちなみにヴォーカルのリヴァース・クオモの妻は日本人で、リヴァースはアリスターのスコット・マーフィーとのユニット、スコット&リヴァースとして全曲日本語のアルバムもリリースしている。

「Say It Ain’t So」は、「そうじゃないと言ってよ」という意味。曲の中で、リヴァースは冷蔵庫の中にいっぱいあったビールを見つけて絶望してしまう。というのも、彼の両親は幼い頃に父のアルコール依存症が原因で離婚しており、母が再婚した継父までも家族を見捨てるのではないかと不安を覚えたことを歌っている。

 6. ブリー「Lose You (feat. Soccer Mommy)」

ブリーは2013年にナッシュビルでバンドとして結成されたが、バンド・メンバーが脱退して現在はアリシア・ボグナノのソロ・プロジェクトとなっている。アリシアはミドルテネシー州立大学でオーディオ・レコーディングの学位を取得し、その後、音楽プロデューサー、スティーヴ・アルビニのスタジオでも働いて経歴を持つ。

ソフィー・アリソンのソロ・プロジェクトであるサッカー・マミーをゲストに迎えた「Lose You」は、2023年に発売されたアルバム『Lucky for You』の収録曲。この曲についてアリシアは「(この曲を書くことが)無常の痛みと現実を乗り越えるための方法だった。楽にはならないけど、反省の後には成長が待っていることが多いし、私にとってはそれが人生というもの」と語っている。

 7. サウンドガーデン「Black Hole Sun」

サウンドガーデンは、1984年に米シアトルで結成され、メジャー・レーベルと契約を交わした初のシアトル出身のグランジ・バンドとしてムーヴメントを牽引したバンド。特にヴォーカリストのクリス・コーネルはその歌声とカリスマ性で人気を博し、他ミュージシャンからも尊敬を集めたが、2017年に帰らぬ人となってしまった。

「Black Hole Sun」は、1994年に発売された4作目のアルバム『Superunknown』収録曲。クリスがある日見ていたテレビのニュースでキャスターが何かを言い間違えて「black hole sun」と言ったことからその響きを気に入って、そこから楽曲ができあがった。後に歌詞の内容についてクリスは「サビの歌詞はちょっと美しくて覚えやすい。でもそれ以外は、書いた後に理解できなかったのは確かだ。ただ音楽に吸い込まれて、歌詞で絵を描いていたんだ」と述べている。

 8. ベック「Loser」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。米ロサンゼルス出身のベックはモデルやアーティストとして有名なビビ・ハンセンに育てられ、1993年にデビューしたソロ・ミュージシャン。

「Loser」はインディーズ時代に一度発売され、それが話題となって1994年にメジャー・デビュー・シングルとして再リリースされた曲。プロデューサー、カール・スティーヴンソンの家で、数時間で「Loser」を書き上げて録音された。「俺は負け犬、早く殺せよ」と自虐的に歌う歌詞が受けて、ベックの代表曲となっている。

ちなみにミュージック・ビデオ冒頭のベックの顔にボカシがかかっているのはスター・ウォーズのストームトルーパーのヘルメットを被っていたことが著作権にひっかかるためだ。

 9. バッド・ナーヴァス「Don’t Stop」

バッド・ナーヴァスは、イースト・ロンドン出身の5人組パワーポップ・ロックンロール・バンド。ザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが「簡単に、今地球上で最も偉大なバンド」とコメントしている。

「Don’t Stop」は2020年に発売したデビュー・アルバム『Bad Nerves』の翌年にリリースされたシングル。フロントマンのボビー・ナーヴスはこの曲について「これは、現金主義のサイコパスが牛耳る社会の隅々からにじみ出る灰色の汚泥を観察したものだ」「(現代社会は)スピードのモノポリーなんだ。毎日、毎日、肉挽き器にかけられて、喉に押し込まれる。食べて黙れってね。これは、現状が我々をゼリー状のパルプに変えてしまう前に、平和的に現状に反対するための行動への呼びかけである」と激しく語っている。

 10. ブラー「Song 2」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。ちなみに幼い頃の「みつき」はオアシスのTシャツを着ているが、成長してからはオアシスを聞いていたり着たりしているシーンはないようなので、ブラー派なのだろうと予想。

ブラーは1990年に誕生したブリット・ポップを代表するバンドで、2023年のサマーソニックのヘッドライナー出演も決定している。「Song 2」は1997年のアルバム『Blur』収録曲で、元々の仮タイトル「Song 2」がそのまま正式タイトルとなった。ちなみにアルバム2曲目の収録曲で、曲の長さは2分2秒、ヴァースとコーラスは2つ、アルバムからの2枚目のシングルだ。

 11. グリーン・デイ「Brain Stew」

1987年に結成されたパンク・バンドによる4枚目のアルバム『Insomniac』収録曲。長男が生まれて、その息子が夜泣きすることで眠られなくなったヴォーカルのビリー・ジョー・アームストロングが不眠症について歌った曲。

1998年に公開された、ローランド・エメリッヒが監督した映画『GODZILLA ゴジラ』では、この楽曲が使用され、「Green Day featuring Godzilla」というクレジットとなっている。

 12. ザカーズ「Just What I Needed」

漫画「追いかけるよ」の回で「みつき」の部屋でポスターが登場するニュー・ウェイヴ・シーンから生まれたバンドがザ・カーズ。バンドは1976年に米ボストンで結成、1978年に発売したデビュー・アルバム『The Cars』がいきなり600万枚を売り上げた。

「Just What I Needed」はそのデビュー・アルバム収録曲で、ベーシストのベンジャミン・オールがリード・ヴォーカルを務めている。サウンドはオハイオ・エクスプレスの「Yummy Yummy Yummy」、歌詞はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Sister Ray」からインスパイアされているとバンドは語っている。

 13. ザ・スミス「There Is a Light That Never Goes Out」

漫画「彼女だけは同担拒否」の回で、クラスメイトの成田君が持っているレコードがザ・スミス。1982年に英マンチェスターで結成され、1987年に解散という短命ながら、モリッシー、ジョニー・マーという二人のカリスマが在籍したことで今でも愛されるバンド。

「There Is a Light That Never Goes Out」は1986年のアルバム『The Queen Is Dead』に収録された楽曲。ジョニー・マーはこの曲について「(最初は)アンセムになるとは思わなかったけど、最初に演奏したとき、今まで聴いた中で最高の曲だと思ったんだ」と語っている。

「君のそばで死ぬのは、天国のような死に方だ」という歌詞が印象的で、2009年の映画『(500)日のサマー』では印象的に使用されていることでも知られている。

 14. ザ・ストロークス「Reptilia」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。ザ・ストロークスは米ニューヨークで1998年に結成されたバンド。

「Reptilia」は2003年に発売された3rdアルバム『Room on Fire』に収録された楽曲。タイトルは私たちが爬虫類と共有している脳の部分を意味する科学用語で、より高度な基本的本能や感情に関係している脳の分野だ。

ちなみにアルバム『Room on Fire』のジャケット写真は、画家ピーター・フィリップスが1961年に描いた「War/Game」というタイトルの絵の一部であり、アメリカ南北戦争で対立する軍隊を、戦闘の典型的な象徴である旗、銃、軍服を通して描いている。

 15. フィーダー「Come Back Around」

フィーダーはTwitterで掲載した「推し(女)の部屋に来てしまった」の回で、「みつき」の部屋にポスターが張られているバンド。

岐阜県出身の日本人であるタカ・ヒロセが25歳の時に渡英して、雑誌にバンド・メンバー募集の広告を掲載したことがきっかけとなり、1994年にロンドンで結成されたバンド。活躍を続けている中、2002年1月にドラマーのジョン・リーが自ら命を絶ってしまうが、残されたタカ・ヒロセとグラント・ニコラスはバンドを続けることを決意し、今も精力的に活動を続けている。

「Come Back Around」はジョン・リーが亡くなった後に発売されたアルバム『Comfort In Sound』からのリードシングルだ。

 16. ロイヤル・ブラッド「Figure It Out」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。

「Figure It Out」はデビュー・アルバム『Royal Blood』に収録されており、ギタリストのマイク・カーはこの曲について、「演奏している時、よく笑ったよ。何かすごくバカバカしいんだよ。エンディングは、1弦ソロと“Billie Jean”のグルーヴに分解される、最高に滑稽で愚かなものに思えたんだ」と語っている。

 17. ガンズ・アンド・ローゼズ「Sweet Child O’ Mine」

ガンズ・アンド・ローゼズは漫画の「聴くたびに」の回で、射的の景品としてボックスセットが登場している。

ガンズは1985年に米ロサンゼルスで結成されたハード・ロック・バンド。1987年に発売されたデビュー・アルバム『Appetite for Destruction』が全世界で3,000万枚というモンスターヒットを記録した時代を創ったバンド。

「Sweet Child O’ Mine」はそのデビュー・アルバム収録曲で全米シングルチャート1位を獲得した楽曲。印象的なイントロについてギタリストのスラッシュは「俺がイントロのリフを弾いていたら、メンバーが後ろでコードを弾き始めたんだ。そして、気がついたら何かに変わっていた。俺は本当に冗談のつもりだったんだけど、アクセルが2階のベッドルームにいて、それを聴いてたのさ」と語っている。

 18. ブラック・サバス「Paranoid」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。

ブラック・サバスは1970年2月の“13日の金曜日”にデビュー・アルバムを発売して以来、ヘヴィ・メタルの祖とされるバンド。ヴォーカリストがオジー・オズボーンからロニー・ジェイムズ・ディオ、その後も何人も代わりながらも、1997年にオジーが復帰、その後活動を続けるも2017年、その活動に幕を閉じた。

「Paranoid」は1970年に発売されたセカンド・アルバム『Paranoid』収録曲。歌詞を書いたギーザ―・バトラーはこの曲やタイトルについては「基本的に、この曲は鬱について歌っているんだ。当時は鬱とパラノイアの違いがよくわからなかったからね」と語っている。

 19. ブリング・ミー・ザ・ホライズン「sugar honey ice & tea」

2004年に英シェフィールドで結成されたバンド。デビューの際は、メタル・コアやデス・メタルの要素を持っていたが、アルバム発売毎にサウンドを変化させ、現在はオルタナティブにまでそのサウンドの幅を広げて人気を高めている。

「sugar honey ice & tea」は2019年に発売されたアルバム『amo』に収録された楽曲。この曲のタイトルについてヴォーカリストのオリヴァー・サイクスは「親父が悪態の代わりによく言っていた言葉なんだ」と語っている(「SHIT」を言う代わりに単語の頭文字をとってsugar honey ice & teaと言っていた)。

 20. WILLOW「<Coping Mechanism>」

漫画「二人なら」の回でこの曲聞いている「あや」と「みつき」の二人が、クラスメイトに熱くこの曲の説明をする。熱弁されたクラスメイトが帰りに聞く描写は音楽ファンにとっては非常に嬉しいところ。

WILLOWはコメディアン/ラッパーのウィル・スミスと、ミュージシャンのジェイダ・ピンケット・スミスの娘。10歳の時に「Whip My Hair」でデビューしたが、この曲は大人にやらされていたもので本人は気に入っていなかった。

成長した後に、メタル・バンドで歌っていた母からの影響を受け、自身で作詞作曲を行って、ロックやパンクの楽曲をリリースし続け、アヴリル・ラヴィーンとのコラボ楽曲もリリースしている。「<Coping Mechanism>」は、彼女のサウンドをより推し進めたアルバム『Coping Mechanism』収録曲。

 21. イヴ・トゥモア「Kerosene!」

Twitterで掲載した「推し(女)の部屋に来てしまった」で、「みつき」の部屋にイヴ・トゥモアのポスターが張られている。

イヴ・トゥモアはフロリダ州マイアミ生まれ、現在はイタリアのトリノを拠点に活動するソロ・アーティスト。当初はエレクトロ/ポスト・チルウェーブ的なサウンドだったが、70年代のデヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックの影響を感じさせるグラム・ロックのサウンドにも挑んでいる。

「Kerosene」は2020年に発売されたセカンド・アルバム『Heaven to a Tortured Mind』の収録曲。タイトルは灯油の意味。ビヨンセの『Lemonade』のプロデュースも担当したダイアナ・ゴードンと共作した。

 22. パール・ジャム「Alive」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。

1990年に米シアトルで結成されたパール・ジャムは、グランジを代表するバンドの一組。ニルヴァーナやサウンドガーデン、アリス・イン・チェインズ、ストーン・テンプル・パイロッツ、ジェーンズ・アディクションといった当時のバンドが解散や活動休止となるなか、最前線で活動を続けている。

「Alive」はバンドの1991年に発売されたデビュー・アルバム『Ten』に収録されたリード・シングル。もともとは前進バンド、マザー・ラヴ・ボーンの亡くなってしまったヴォーカリストのアンドリュー・ウッドが歌っていたもので、この時のデモテープが当時石油会社の警備員として働いていたエディ・ヴェダーの手に渡り、エディはオーディションを受けてパール・ジャムとしてこの曲がレコーディングされることになった。

 23. ミューズ「Hysteria」

ミューズは、漫画では「目が潰れそうです」にて、小さい頃、叔父さんにミューズのライヴに連れて行ってもらい「録音よりうまい生演奏がこれか~」と話す「みつき」の話を聞いた「あや」羨ましがるという音楽ファンあるあるの中で登場する。漫画の世界観は現実とほぼ同じ時間なので、2015年のフジロックで見たのかもしれない。

ミューズは英デヴォン州で1994年に結成されたバンドで、デビュー5年という短さで英国最大級のフェスティヴァル、グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーを担当するほどライヴに定評がある(同フェスの別日のトリはポール・マッカートニーとオアシス)。

「Hysteria」は2003年に発売された3枚目のスタジオ・アルバム『Absolution』の収録曲。2011年にはMusicRadar誌が選ぶ「最高のベースラインの曲」にてクイーンやラッシュといった楽曲を抑えて、第1位に選出された。

 24. ドリーム・ウィドウ「The Sweet Abyss」

本解説の「2」にも登場するフー・ファイターズのデイヴ・グロールが主演・制作した映画『Studio 666』に登場する架空バンドで、「The Sweet Abyss」は主にデイヴが演奏した楽曲を収録して実際に発売されたアルバム『Dream Widow』の収録曲。

デイヴとフー・ファイターズは、他にも変名バンドの活動を行っており、ザ・ビー・ジーズのトリビュート・グループ、ザ・ディー・ジーズとしても作品を発売している。

 25. アークティック・モンキーズ「Brianstorm」

アークティック・モンキーズは2002年に英シェフィールドで結成されたバンド。2005年に発売されたデビュー・シングル「I Bet You Look Good on the Dancefloor」は全英チャート初登場1位を記録し、「オアシス以来の衝撃」と評された。

楽曲タイトルはひらめきの意味である「Brain Storm」ではなく、「Brianstorm」である。2007年のセカンド・アルバム『Favourite Worst Nightmare』に収録されたこの曲は、日本ツアーでの大阪公演の楽屋を勝手に訪ねてきたブライアンと名乗る人物に衝撃受けて作られた。当時のこの事についてメンバーは次のように語っている。

「彼が部屋から出て行ったとき、ちょっと呆気に取られたんだ」「ほんとにヘンな奴だった。いきなり名刺もって現れて、Tシャツにネクタイをゆるめに着けててね。そんな格好した奴、それまで見たことなかったよ」

 26. レッド・ホット・チリ・ペッパーズ「Dani California」

レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、漫画の中で「みつき」が来日公演のチケットを2枚購入できたロック・バンド。

バンドは、1982年に米ロサンゼルスで結成。当初はファンクやラップを取り入れていたが、時を経るごとにその幅を広げて人気も評価も広げていった。

「Dani California」は2006年に発売された9枚目のアルバム『Stadium Arcadium』のリードシングル。有名プロデューサーのリック・ルービンがプロデュースした楽曲は、バンド・メンバーが様々なバンドに扮したミュージック・ビデオも話題となった。バンドは何に扮しているか明言していないが、エルヴィス・プレスリー、ブリティッシュ・ロック・バンド、サイケデリック・ロック・バンド、パーラメント/ファンカデリック、グラム・ロック・バンド、ゴシック・バンド、ミスフィッツ、パンク、ヘアメタル、グランジなどなどが登場する。

 27. ゴリラズ「Feel Good Inc.」

単行本の巻末書下ろしの最初に、少女の頃の「みつき」がiPodで聴いているシーンが収録されている。

ゴリラズはギネスブックから最も成功したバーチャルバンドとして認定されたバンドで、ブラーのデーモン・アルバーンがサウンドを担当、漫画家のジェイミー・ヒューレットがヴィジュアルを担当するプロジェクトだ。4人のアニメーションのキャラクターはジャケット写真やミュージック・ビデオだけではなく、2006年の時点でいち早くライヴ・ステージ上にも登場している。

「Feel Good Inc.」はセカンド・アルバム『Demon Days』に収録されたシングルでヒップホップ・グループのデ・ラ・ソウルがゲスト参加している。当時iPodのCMソングとして使われたことで、世界中で大ヒットを記録した。

 28. パラモア「Crushcrushcrush」

パラモアは、2004年に米テネシーで結成されたロック・バンド。デモテープが話題となり、紅一点のヴォーカリスト、ヘイリー・ウィリアムスが17歳の時にデビュー・アルバム『All We Know Is Falling』を発売し、その後バンド・メンバーが代わりながらもヘイリーを中心にして活動を続けている。

「Crushcrushcrush」はセカンド・アルバム『Riot!』に収録されたシングル。お互いに好き合っている(それぞれが相手に片思いしている)にもかかわらず、個人的な不安や周囲の環境のせいで、関係が花開くことがないカップルについて歌われた曲だ。

 29. コレクティヴ・ソウル「Shine」

1992年に米ジョージア州で結成されたポストグランジ系オルタナティブ・ロックバンド。同時期のバンド達と違って解散することなくコンスタントにアルバムをリリースし続けている。

シングル「Shine」は彼らのデビュー・シングルで1993年のデビュー・アルバム『Hints Allegations and Things Left Unsaid』に収録された曲。当初はインディーズのレーベルからひっそりとリリースされたがジョージア州立大学のラジオ局がかけると草の根的に広がっていき、その後メジャーのアトランティックと契約して再リリースされると200万枚を売り上げ、彼らの代表曲となった。

 30. ニルヴァーナ「Heart-Shaped Box」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。

1993年に発売されたニルヴァーナの3rdアルバムで最後のスタジオ・アルバムとなったアルバム『In Utero』収録曲。カート・コバーン自身は、ガンに苦しむ子供たちを報じたニュースからインスピレーションを得たとしているが、妻コートニーとの関係を歌っているのではないと言われている。

タイトル「ハート形の小箱」というタイトルについては、カートは何のことなのか明らかにしていない。本当の小物入れの箱なのか、ラブレターを入れた箱なのか、はたまた子宮の事ではないかなど様々な説がある。また歌詞にある「君のへその緒を投げ捨てれば、僕はすぐに戻ってこられる」という部分は、母親の胎内に戻って人生をやり直したいというカート流の表現ではないかとも言われている。

 31. デフトーンズ「Be Quiet and Drive (Far Away)」

漫画の「世界で一番きれいな音」の回でこの曲を聴いている描写が登場する。

デフトーンズは1988年に米カリフォルニアで結成されたオルタナティブ・メタル・バンド。ヴォーカルのチノ・モレノが持つカリスマ性と、ヘヴィながら耽美的なサウンドで評論家からも賞賛を受けている。バンド名の「デフ」とは、元々はヒップホップのスラングで、「Definitely」(素晴らしい)の略。バンド名を直訳すると「素晴らしい音」という意味となる。

「Be Quiet and Drive (Far Away)」はセカンド・アルバム『Around the Fur』からのシングル。曲で歌われているのは、毎日同じ町で同じことの繰り返し、そこから逃れたいと思っている人物。彼が車で運転してくれる人を見つけ、町をでることになった際に、故郷を去る瞬間を味わいたいために、運転手に静かにしてもらいたいと歌われている。

 32. ビーバドゥービー「Talk」

2000年にフィリピンで生まれ、ロンドンで育ったソロ・アーティスト。デビュー・シングル「Coffee」が公開数日で30万回再生され、NMEアワードの新人賞である「Radar Award」や、BBCが有力新人を毎年セレクト「Sound of 2020」にも選出されている。名前の「Beabadoobee」は特に何も意味はなく、ランダムなもので、これが定着するとは思わなかったと語っている。

「Talk」は2022年に発売されたセカンド・アルバム『Beatopia』の収録曲。火曜日の夜に恋人と出かけることを歌ったもので、「それほど深い曲じゃない」と本人は語っている。

 33. ボン・ジョヴィ「You Give Love A Bad Name」

「あや」が「みつき」に送ったプレイリストに収録されていた曲。

バンドは1983年に米ニュージャージーで結成されたヴォーカリストのジョン・ボン・ジョヴィ率いるハード・ロック・バンドで、全世界で1億2000万枚を売り上げた人気バンド。

「You Give Love A Bad Name」は1986年に発売された彼らの3rdアルバム『Slippery When Wet』に収録されたシングルで、バンド初となる全米シングルチャート1位を獲得した。ミュージック・ビデオは彼らのライヴの様子を撮影したもので、当時、MTVのチャートでトップを獲得してその人気が大きくなった。

 34. エアロスミス「Walk This Way」

漫画の「今日もギャルに絡まれる」の回で、校長先生が校内放送でかけていたのは、漫画内に言及はないがこの曲で間違いないだろう(校長は、この後にも登場して欲しい)。

エアロスミスは1970年に米ボストンで結成され、1973年にデビューしてから現在までに全世界で1億5000万枚の売り上げを誇るハード・ロック・バンド。メンバーの薬物問題やメンバーの脱退などで1980年前後に一時解散状態となるも、ラップ・グループ、RUN DMCによる「Walk This Way」のカヴァーをきっかけに復活を果たし、1998年には映画『アルマゲドン』の主題歌「I Don’t Want to Miss a Thing」で全米1位を記録している。

「Walk This Way」は1975年に発売されたアルバム『Toys in the Attic』に収録された楽曲。楽曲のタイトルは『フランケンシュタイン』をパロディにした映画『ヤング・フランケンシュタイン』で、助手のイゴールがフランケンシュタイン博士に「Walk This Way/この道を歩け」と言うセリフからとられたものという説や、映画『三ばか大将』を見ていたヴォーカルのスティーブン・タイラーが思いついたという説がある。

 35. レディオヘッド「Creep」

「みつき」が後夜祭のステージに飛び入りで演奏したのがレディオヘッド。漫画内では楽曲までは言及されていないが、単行本のチャプター2のタイトルが「Creep」となっているので、演奏した曲はこの曲で間違いないだろう。「あなたのためにかわいくありたい」の回で「みつき」がレディオヘッドのTシャツを着ているのはその伏線にもなっている。

レディオヘッドは英オックスフォードシャーで1985年に結成されたバンド(当時のバンド名はオン・ア・フライデー)。90年代から00年代まで、そのサウンドの変化や世界観、販売方法などで話題を振りまくUKを代表するバンド。

「Creep」はバンドのデビュー・アルバム『Pablo Honey』からの先行シングル。タイトルは「気持ちが悪い」を意味し、ヴォーカリストのトム・ヨークは楽曲の中で「But I’m a creep, I’m a weirdo / でも俺はキモい、変人なんだ」と歌っている。元々はトムが、好きになった女性に対して、ストーカー的な行為を数日続けたあとに酔っぱらって告白。するとその女性がパニックになってしまったという体験から生まれたとされている。

 36. ダイヴ「Horsehead」

本記事の4曲目にも登場するバンド。

「Horsehead」は1,2作目のドリームポップな作風から、ダークでオルタナティブに変化した2019年に発売された3rdアルバム『Deceiver』の1曲目に収録された曲。

 37. ミツキ「Your Best American Girl」

漫画「色々追いつかない」の回で、「みつき」が日系アメリカ人のシンガー・ソングライター、ミツキ・ミヤワキのソロ・プロジェクト「Mitski」とCHAIとの2022年のツアーの際に作られたTシャツを着ている描写がある。

ミツキは1990年に三重県で生まれ、ニューヨーク州立大学のパーチェス校に進学した19歳の頃から作曲活動を開始。「Your Best American Girl」は2016年に発売されたセカンド・アルバム『Puberty 2』に収録された曲だ。アメリカ人の彼に対して「アメリカの男の子のあなたには、アメリカの女の子の方がお似合いだろうけど、私はそうなれない(でも諦めない)」という内容の楽曲。

 38. マイ・ケミカル・ロマンス「Welcome to the Black Parade」

2001年に米ニュージャージーで結成されたバンド。00年代を代表する音楽ジャンルである「エモ」としてくくられることが多いが、バンド自体は「エモ」であることは否定している。2013年に解散を発表したが、2019年に復活を果たし、コロナ禍以降は世界中をツアーし、新曲も発表している。

「Welcome to the Black Parade」は彼らの3rdアルバム『The Black Parade』に収録された代表曲。リード・シンガーのジェラルド・ウェイは、このアルバムのコンセプトは、若くしてガンで亡くなる「患者」であると説明。彼よると、死は最も強烈な思い出という形で訪れるが、「患者」にとってのその思い出とは、彼が父親と行ったパレードであり、これがアルバム・タイトルを説明しているという。

Written By uDiscover Team

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「次にくるマンガ大賞 2023」ノミネート中
『気になってる人が男じゃなかった VOL.1』
著者:新井 すみこ
定価:1,210円(本体1,100円+税)
発売日:2023年4月19日(電子書籍同時発売)

© ユニバーサル ミュージック合同会社