富山―上海「誰が乗るの」 8月再開控え県民利用に壁 ビザ申請「手間が大変」

中国東方航空の子会社・上海航空の機材で運航される上海便=2020年、富山空港

  ●名古屋へ本人2往復、発給に40日超

 3年5カ月ぶりに富山空港の国際線として復活する上海便。8月8日の再開を前に、富山県内の旅行関係者らの間で運航への懸念が高まっている。富山から上海へ行く条件であるビザ(査証)を申請するには、搭乗者本人がセンターのある名古屋市を2往復する必要がある。発給日までに少なくとも40日以上かかり、今からの申請では再開日に間に合わない。県幹部からは「手間が大変で誰が乗るのか」と不安視する声も漏れる。(政治部・森康平)

 富山県民が中国へ渡航するためのビザを新規取得するには、名古屋市内のビザ申請センターへ申請書類を提出することが求められる。本人の生体認証データとして両手の全ての指紋を採取するため、搭乗者本人が名古屋に行かなければならない。現段階ではビザ発給時にも原則として再び本人がセンターを訪れる必要があるという。

 県によると、旅行会社が手続きを代行していたこともあったが、現在は休止している状態という。ある旅行会社の担当者は「書類を集めるのが煩雑なため、客側に申請をお願いしている」と説明する。

 複数の旅行関係者によると、センターへの申請が殺到しているため、書類の処理に時間がかかっている。センターに訪問する予約も取りにくく、現在は発給までに少なくとも40日以上を要するとみられる。

 こうした中、日中友好県地方議員連盟は今月10日の総会で、今年度の訪問団派遣の見送りを決めた。宮本光明会長は「一人一人がビザを取りに行かないといけないことは事実だ」として、ビザ発給の手間を理由の一つに挙げた。

  ●中国人利用中心か

 「(県内から上海に向かう)アウトバウンドの需要は相当厳しいと思っている」。旅行代理店「ニュージャパントラベル」(富山市)の松田隆社長はこう見通す。その上で、県内に在留する中国出身者の利用が中心になると想定する。

 富山空港の国際線は、新型コロナの感染拡大前の5年間は年間10万~12万人の利用があり、上海便はそのうち2割程度を占めていた。

  ●県「まずは実績」

 県航空政策課の担当者は「ハードルが高いことは間違いないが、他の路線の定期便再開に向け、まずは上海便で実績を積むことが大切だ。国にビザなし渡航の復活も求めたい」と強調する。

 ただ、中国政府が日本への団体旅行の制限を継続しており、上海側からは当面の間、団体客の利用は期待できないとされ、インバウンドも見通しは厳しい。日本人に対するビザ発給は、日本政府による新型コロナ水際対策強化の対抗措置として一時停止された経緯もあり、ある旅行関係者は「この先どう転がるかが怖くて中国には手が出せない」と声を潜めた。

 富山―上海便は、運航会社の中国東方航空が復便を決め、8月8日~10月28日に運休前と同様、週2便が運航する。地方空港では岡山に次ぐ2番目の再開となる一方、富山と同じ中国東方航空が最大週6便飛ばしていた小松空港は運休が続く。

  ●「台北が先」の声

 石川県は富山に先駆けて小松―台北便再開にこぎつけるなど「台湾シフト」を強め、中国側の反感を買ったとの見方がある。両県の国際線再開の動きは、緊張の高まる中国と台湾の関係に翻弄(ほんろう)されているとの指摘もあり、富山県の旅行関係者からは「上海便では当面はビジネスにはならない。なぜ台北よりも先に上海を再開させたのか」との不満の声も出ている。

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