待ち遠しい

 〈五月雨を集めて早し…〉-この「五月雨」は旧暦5月の雨で梅雨のこと…と広く知られているが、では実際に何月の何日に詠まれた句なのか、と思いついて調べてみたら驚いた▲以下は、日本文学者の吉海直人さんの解説から。「奥の細道」の旅に同行した河井曽良の日記によると、松尾芭蕉がこの句を詠んだ山形県の大石田に到着したのは元禄2(1689)年の5月28日。び、ビンゴ、と立ち上がりそうになった。きょうの「旧暦」をごらんいただきたい。ちょうど今の時季だ▲そこで開かれた句会で、芭蕉が最初に詠んだのが〈五月雨を集めて涼し最上川〉。その後、滞在中に体験した急流の川下りで〈水みなぎって舟あやふし〉と怖い思いをして「涼し」を「早し」に置き換え、あの名句ができあがったという▲暴力的にさえ感じる最近の梅雨の雨降りと「五月雨」の柔らかな語感は、どうにもマッチングが悪い。今年も各地に深い爪痕を残し、この週末は東北で記録的な雨が心配されている▲何となく心強く感じるのは週間天気予報に戻り始めたお日さまのマークだ。ひょっとしたらそろそろ、とほのかな期待を▲〈立ちおおふ雲のひまより青空のわつかに見えて梅雨明けんとす〉正岡子規。「わつか」は輪っか。さあ夏だ、と心の弾む日が待ち遠しい。(智)

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