「みんなの幸せのため」名物住職が手がけた初の長編映画に込められたテーマ 鬼才・島田角栄監督もエール

ラピス和尚が監督した映画「4390 -Case of Island 385-」の試写会が、7月8日に神戸ラピスホール(神戸市中央区)で開催された。

試写会の舞台挨拶

本作は、沖縄・宮古島を舞台にした、笑えるシーン盛りだくさんのスパイコメディ。懐かしの平成アイテム「ポケベル」が重要なアイテムとして使われていたり、お色気たっぷりのムフフ(死語)なシーンもある。映画初出演ながらパワフルな演技で主演を務めた「橋本兄妹」橋本菜津美さん橋本大祐さんを、吉川愛未さん三枝雄子さん関秀人さんら実力派の面々が脇で支えた、見ごたえのある作品だ。

神戸の名刹、広厳寺の住職でありながら、近年、映像作家としても注目されるラピス和尚。本作に込められた想いを聞いた。

試写会後の打ち上げ時、出演者やスタッフに囲まれるラピス和尚

――本作の製作に至った経緯は?
ラピス和尚:40年近く前のことですが、京都の寺での修業時代、ある映画監督が撮影に来られました。なぜ映画を作るかという僕の問いに「みんなの幸せのため」と答えてくれたのがずっと印象に残っています。その後、映像業界で働いたのち広厳寺に入り、現在に至るのですが、コロナ禍で人々の心がすさんでゆくのを見て、自分も何かしなくてはと初の長編映画製作を決意しました。

――面白い展開の中に、重いテーマも散りばめられていましたね。
ラピス和尚:若い頃、映画『インディージョーンズ』(1981年)に衝撃を受けました。歴史や政治に対するメッセージもありながら、ユーモアや恋愛要素もあるんですよね。いつかあんな映画を撮影したいと思い続けていたのが、本作にも影響していると思います。

本作にも、島嶼防衛やスパイなどの要素を盛り込みましたが、基本的には楽しんでいただきたいので殺生は無しということにもこだわりました。

――住職として、伝えたいことも盛り込まれたのでしょうか?
ラピス和尚:仏教の世界でも、優しい側面だけではありません。仁王様のような、ある意味軍事的な仏様もいて、邪が入ってくることを防いでいます。美しい海を守るためにも防衛力は必要だと思います。

――終始笑いながら観ていましたが意外にテーマが深いですね。
ラピス和尚:映画は娯楽です。楽しんでいただくが大事だと思っているので、笑って観ていただけて嬉しいです。

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【出演者コメント】
橋本菜津美さん

主演を務めた橋本菜津美さん。兄・橋本大祐さんとのコンビ「橋本兄妹」で始めたTikTokは1億回再生突破。音楽グループ・半熟BLOODのボーカリストとしても活躍する注目のインフルエンサーだ

「本格的な演技は初めてで緊張しました。主役の「橋ノ本兄妹」は私たち橋本兄妹をイメージして作られたキャラクター。監督からは「普通に演じて」と言われたのですが、その普通が難しく、自分の癖を研究して演技を作り込みました。深いテーマもありながら楽しい作品なので、音楽活動やTikTokで私を知った方たち…特に若い世代の方にはぜひ観てほしいと思っています。俳優として次を楽しみにしてくれる人がたくさんいれば嬉しいです」

吉川愛未さん

吉川愛未さん。本作では主役の橋ノ本兄妹たちをかたわらで見守る謎の美女役を好演。普段のグラビアで見せる顔とは少し違った鬼気迫るアクションも見ものだ。

「本作への出演が決まったことで、アクション・コーディネーターを担当された黒猫カルチェさんに師事し、武術、アクションを猛特訓しました。松田陽子さんと打合せを重ねて挑んだアクションシーンにはぜひ注目してほしいです。ラピス和尚はじめ関係者のみなさんにはとても貴重な体験をさせていただきました。これまでのグラビアモデルの仕事に加えて、さらにいろんな表現に挑戦していきたいと思うようになりました」

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試写会のアフタートークイベントにも登場した映画監督の島田角栄さんにもお話を聞いた。数々のエキセントリックな作品を手がけ“パンク映画の鬼才”と名高い島田さんが、いかにも温厚そうなラピス和尚と交流があったことに驚いたが、果たして本作にどんな感想を持ったのだろうか。

“パンク映画の鬼才”として注目を集める島田角栄監督。試写会のアフタートークに登壇した。

――ラピス和尚との関係は?
島田角栄(以下、島田):初めは撮影の仕事がきっかけだったかな?僕がお金がないのに映画を作ろうともがいてた時も助けてもらったりと、昔から交流があるんです。よく手作りの辛いカレーを振る舞ってもらってました。今回はチケットが余ってるだとかで誘われて、観光気分で宮古島に行ったんですが、いざ現場に行くと思い切り手伝わされました(笑)。

――映画の感想は?
島田:一言でいうと“惜しい”(笑)。でも、女性を綺麗に撮るのは上手いなと思ったし、とりあえず映画を作れるということは分かったから2作目に期待やね。スピルバーグが『シンドラーのリスト』(1993年)を撮ったみたいに、もっと和尚ならではの感情や葛藤…“物づくりの意思”を表現してもいいんじゃないですかね。

――手厳しいですね(笑)。
島田:僕を呼ぶってことは、上辺のコメントは求めてないはず。和尚、頑張ってるし、お世辞なんか言うのは逆に失礼やろうと。役者は本当に良かった。僕が見る限り、全部一発で決まってたね。撮影の雰囲気もほんと良かったし、仕上がりもそれを反映してポップでキャッチーに仕上がったのは和尚の人徳かな。

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ラピス和尚の思いが詰まった映画「4390 -Case of Island 385-」。今後、さまざまな映画祭に出品した後、一般公開を検討中ということ。詳細は映画の公式Twitterアカウントからチェックしてほしい。

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「4390 -Case of Island 385-」

【監督・脚本】ラピス和尚(千葉悠晃/ちば・ゆうこう)
【出演】橋本菜津美、橋本大祐、吉川愛未、宮前侑平、関秀人、亀山貴也、田北良平、桂三ノ助、三枝雄子、松田悠、あっぱれ北村、BADMAX 藤永、松田陽子
【あらすじ】南国の魅力あふれる沖縄・宮古島に移住してきた橋ノ本兄妹。兄は卸問屋で、妹はカフェで働き平和な日常を過ごす...のかと思いきや、実は彼らは某国の企てる越境工作を阻止するために派遣されたエージェント見習いだった。懐かしの平成アイテム「ポケベル」で寄せられる指令により巨悪に立ち向かう兄妹と個性あふ れる仲間たち。徐々に解き明かされる陰謀の内幕、そして淡い恋の行方は?軽快なテンポの中に巧みにスリルと 笑いの地雷が散りばられたエンタメ感あふれるスパイコメディ。
Twitterアカウント:https://twitter.com/eiga4390

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