「平和の鐘」鳴り響いて 紅型に思い込め 山田真山さんの娘・眞佐子さん 20年ぶり再起の作品で全国入賞

 平和の鐘が世界に鳴り響きますように―。沖縄平和祈念像の作者の山田真山さん(1885~1977)の娘で、紅型作家の眞佐子さん(作家名山田泥眞(でいしん))(76)=宜野湾市=の新しい作品「古琴(こきん)幻想―風音(ふうおん)」が「第32回工芸美術日工会展」(工芸美術日工会主催)で奨励賞を受賞した。会員は約100人。奨励賞は約120作品から7作品が選ばれた。全国規模の展覧会への出品は約20年ぶり。「“基地や戦争”と言うと身構えられる。柔らかな色合いやデザインで、少しでも沖縄の問題を知ってほしいという思いがあった」と語る。

 眞佐子さんが染めの世界に飛び込んだのは高校卒業後、19歳の時。城間びんがた工房(那覇市)に入り、技術を学んだ後、琉球政府の工業試験場に採用され、紅型作りに携わった。キャリアは50年以上。ただ、順風満帆ではなかった。

 網膜?離で目の手術をしたり、家庭の事情から精神的に落ち込んだりする時期が長く続いた。「出品する余裕もなかった」。ほそぼそと着物や帯の注文を受け、納品してきた。展示会は2003年に沖縄市のプラザハウスでのものが最後。全国的な展覧会にも出品できる状況ではなかった。

 「待っているよ。出品してみたら」。知人の言葉に背中を押され、約20年ぶりに新しい作品に取り組むことを決めた。40年以上前に娘を産んだ時に作った銅鐸(どうたく)の型が残っていた。それを使い、新しい作品を作り上げた。高さ178センチ、幅110センチ、古い琴の周りにたくさんの銅鐸を配置。背景は青、緑、黄や紫のグラデーションで仕上げた。

 制作を通じ、改めて伝統文化の価値を見直した。それを壊す戦争を拒む思いも強まっている。「争うよりも、壊れてしまった地球をきれいにしたい。自分たちの文化を大切にし、土地のものを残していかなければ」

 波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生をくぐり抜けてきたからこそ、苦しみや悲しみを包み込む穏やかさがそこにある。「世の中を疲弊させないために政治がなんとかするしかないけれど、今の日本はそれに逆行している。(作品が)見る人の心の癒やしになれば」。70代後半で再起した眞佐子さん。自分なりのペースで創作を続けていきたいと先を見据えている。

(中村万里子)

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