家族関係次第で最適な選択肢が変わる 相続でモメやすい不動産を分ける時の三つの方法

相続で、自宅などの不動産をきょうだいたちと分けなければならないとしたら、どうすればいいでしょうか。今回は、相談者の斎藤さんの例から考えながら、不動産などの分けにくい財産を分ける時に役立つ三つの方法について解説します。


斎藤祐子さん(58歳)は、亡くなった母の相続手続きのことで相談に来られました。父が5年前に他界しているため、母の相続人は、祐子さんとそのお兄さんの2人です。祐子さんとお兄さんは、どちらも結婚して家を所有しているので、相続財産である母の自宅を売却してお金を半分ずつ分けようと考えていました。

このような場合には、次の三つの方法をとることができます。

(1)換価分割 (2)共有分割 (3)代償分割

それぞれのメリットとデメリットを、斎藤さんのケースに当てはめながら紹介していきます。

(1)売却して分ける「換価分割」

換価分割とは、相続財産を売却し、お金に換えて分ける方法です。この方法は、そのままでは分けにくい財産を、お金に換えて分けることができます。相続財産の分割でトラブルが多いのは、お金に換えることができない財産があるときです。特に、不動産が問題になることが多くあります。なぜなら、不動産は「固定資産税評価額」「相続税評価額」「売買価格」など、価値の基準が複数あるからです。

◆単独名義になるように名義変更を行い、単独で売却

今回のケースを例にしてみましょう。相続財産である母の自宅を売却して、祐子さんとお兄さんで半分ずつ分けるということですが、売却などの手続きの中心となるのは、祐子さんだとします。このような場合、まずは「換価」することを目的として祐子さんの「単独名義」となるように不動産の名義変更を行い、その後に祐子さんが「単独」で不動産の売却を行います。そして、売却金額から諸費用を差し引いた残金の半分を、お兄さんへ分配することで換価分割が完了します。なお、売却により利益が出た場合は、譲渡所得税が課税されますが、これも祐子さんとお兄さんのそれぞれが負担することになります。

◆良好な家族関係が前提

換価分割は家族関係が良好であれば、相手を信頼して手続きを任せることができます。しかし、家族関係が良好ではない場合には、祐子さんの「単独名義」に不動産の名義変更をした後、本当に売却してくれるのか、売却後の残金は本当に分配してくれるのかなど、疑う気持ちがトラブルになる可能性があるので、お勧めすることができません。

(2)相続財産を複数の相続人で引き継ぐ「共有分割」

共有分割とは、相続財産を複数の相続人で引き継ぐことをいいます。この方法は、分けにくい財産を複数の相続人で共有して所有することができます。売却することは決めているが、売却時期や方法などをみんなで決めていきたい場合の方法です。

◆不動産は共有名義になる

今回のケースで例えると、仮に祐子さんとお兄さんの信頼関係が不十分だった場合、お兄さんとしては、名義変更や売買を祐子さんに一任するのは不安になります。そんな時、「共有分割」であれば、相続財産である母の自宅そのものを、祐子さんとお兄さんで2分の1ずつ相続することができます。

ただし、共有名義となることで不便もあります。不動産の売却を行う際などは、各種手続きについても2人が協力して行わなければなりません。2人が同意しなければ売却することはできないので、売却時期や方法はあらかじめ確認しておくことをお勧めします。つまり、最低限の信頼と協力は必要になるということです。

◆売却金額も諸費用も所得税も均等に割る

売却後については、売却代金は当然に2人に支払われます。また、譲渡所得税については、換価分割と同様に祐子さんとお兄さんのそれぞれが負担することになります。

(3)財産を一部の相続人が引き継ぎ他の相続人にお金を渡す「代償分割」

代償分割とは、相続財産を一部の相続人が引き継ぎ、その代わりに他の相続人へお金を支払う分割方法です。換価分割や共有分割が難しい場合、不動産を売却したくない相続人がいる場合などに検討する分割方法です。

今回のケースを例にすると、祐子さんが不動産を引き継ぐ代わりに、その不動産の価格の半分相当額をお兄さんへお金で支払うということになります。こうすることで、不動産は祐子さんの単独名義になります。その後は、祐子さん一人で売却することも可能ですし、売却をせずに使用することも可能です。

◆代償金の支払いは負担だが相続に早く決着がつく

ただし、売却の時期などによっては、先に代償金を支払うことになりますのでお金が必要になります。また、不動産についてどの価格を基準とするかでトラブルになるケースもあります。もちろん、祐子さんが「単独」で不動産を引き継いでいるので、売却した場合の諸費用や利益が出た場合の譲渡所得税は祐子さんが負担します。

このように、代償分割は代償金を払う側に負担が大きいように思えますが、相続に早めに決着をつけることができるというメリットもあります。手続きや税金だけでなく、家族関係によっては有効なケースもあります。

家族関係によって選択肢は変わる

今回のケースでは、祐子さんとお兄さんの家族関係は良好で、なるべく平等にしたいとのことで「(1)換価分割」で手続きを進めることになりました。

このように「分けにくい相続財産をお金に換えて分ける」ということだけでも複数の方法があります。手続きの方法や税金だけではなく、家族関係によっても選択肢は変わるでしょう。難しい知識が必要になることもありますので、まずは専門家に相談のうえ、手続きの方法を検討することをお勧めします。

上級相続診断士・行政書士 藤井利江子

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