初勝利を逃しうなだれる牧野任祐。4年ぶりのポールスタートも「完全に実力で負けて悔しい」

「そうですね……悔しいです」

 公式映像でのインタビューで、そう短く答えた牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)。インタビューが終わると、サインガードの段差にうなだれるように座り込んでしまった。

 デビュー戦以来4年ぶりのポールポジションを獲得し、自身初優勝を目指してスタートを切った牧野。オープニングラップでは、リアム・ローソン(TEAM MUGEN)との攻防戦を制しトップを死守したが、途中のピットストップで逆転を許すこととなった。

 その後は、最終ラップまで前を行くローソンを懸命に追いかけるも、その差は徐々に広がっていき、4.4秒差の2位でチェッカーを受けた。彼のスーパーフォーミュラでのキャリアから言えば、この2位フィニッシュは自己最高位なのだが、本人にとっては“レースキャリア史上一番”と言っても過言でないほど悔しい1戦となった。

■ローソンのセクター2が速くなり「稼げるポイントが減った」

「実際にレース前半は守れていたので、あれで(ピットアウト後も)前にいられれば勝てたと思います。そういうところも含めて、総合力で負けたのかなという感じです」と記者会見後もまだ涙がこぼれ出そうな表情を浮かべながら、牧野は振り返った。

「久しぶりにSFでちゃんとレースができたと思うと、あまり落ち込んでも仕方ないのでポジティブに捉えるしかないですけど……僕のレースのなかで1番悔しいレースですね。本当に勝ちたかったです」

 すぐそこに見える勝利を追いかけていた牧野だが、レース後半になると前を行くローソンに0.1秒ずつ引き離されていく展開となってしまった。「(ローソンの)セクター3が本当に速かったので、僕たちがセクター1・2で稼がないといけませんでした。燃料が減ってきたレース後半も、リアムのセクター2がけっこう速く、僕の稼げるポイントが減ってしまったのでちょっとずつ離れていく感じでした」と振り返った。

 しかし、今シーズンの状況を加味すると、大きな進歩と収穫もあった大会でもあったという。

「レースは完全に実力で負けて悔しいですけど、ポジティブなことしかなかったのかなと思います。ポールポジションを獲れたのもあるし、レースペースも以前と比べて間違いなく改善されていると思います」

「コンディションも、思ったより涼しかったということもあるかもしれませんが、暑くなることも想定していました。悔しいですけど、ポジティブなことも多い富士のラウンドでした」

 今シーズンは車両がSF23へと変更となり、序盤戦は苦労していた感のあった牧野だが、6月の富士公式テストでマシン全体を見直してありとあらゆる変更を施してきたという。

「結局、今まではみんなもSF19をベースにしていたところはあると思いますが、それがSF23になって、僕たちの(セットは)あまりにも合っていなかったなというところがありました」

「やっぱり1番は、この前のテストがあったのが大きかったです。夏のタイミングでテストすることが今までなかったので、それができたのが本当に大きかったです」

「クルマのコンセプトを根本的に考え直して、(今のマシンは)今までとはまったく違うと言えるくらい変えています。予選終わってから杉崎さん(杉崎公俊エンジニア)と『これで鈴鹿行くとどうなるんですかね?』と話しました。もてぎはなんとなく行けるビジョンが見えるんですけど、鈴鹿がどうなるのか……それはそれでどうなるか楽しみです」

 その変更内容については、具体的に例えるのが難しいほどのようで、「何から何まで全部変えました。これで仮にSF19に戻ったら、大変かもしれません」と牧野。最後は「次のもてぎでは何としても勝てるように、またみんなで頑張りたいです」と前を向いていた。

2023スーパーフォーミュラ第6戦富士 牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)

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