大雨に負けず山間部に新聞 富山新聞小矢部センター

稗田所長(右)から富山新聞を受け取る山元会長=小矢部市峰坪野

  ●倒木で車不通、歩いて配達

 富山県内で12日夜からの大雨による土砂崩れなど大きな被害が出る中、富山新聞の配達員が道路寸断で復旧のままならない小矢部市山間部に配達を続けている。住民からは「大変な中、よく届けてくれた」「こんな時こそ地域の情報が欠かせない」とねぎらいの言葉が寄せられ、配達員も「新聞を待つ読者がいる。雨風に負けず配り続け、読者との絆を大事にしたい」と心を一つにしている。

  ●住民感謝「地域情報欠かせない」

 22世帯が暮らす同市峰坪野(みねつぼの)には、16日も富山新聞小矢部販売センター(同市小矢部町)の稗田智宏所長(49)が車で行ける所まで進み、そこから新聞の束を抱え、長靴で歩いて届けた。

 峰坪野を含む南谷地区は石川県境に接する山間部に位置し、国道471号から枝分かれして11町内が点在する。国道から峰坪野に向かう一本道の市道は今回の大雨で地盤が緩み、大量の倒木でふさがれ、現在も車両通行止めが続く。

 12日夜、冠水する路面や駐車場を見て、稗田所長は「どこが道か分からない所もある。安全に十分注意してほしい」と配達員に指示した。国道8号、国道471号などが通行止めとなり、通常は販売センターから峰坪野まで車で15分程度の距離ながら、土砂崩れなどの発生や安全を考慮し、13日は石川県側から遠回りするルートを選択した。

 北陸自動車道金沢森本インターチェンジ(IC)から津幡町河合谷地区を通り、約1時間半後、県境に接する小矢部市嘉例谷(かれいだに)にたどり着いた。嘉例谷、荒間、千石、岩尾滝、峠、論田、谷坪野と順次配り終えたが、最後の峰坪野には脇道からも入れず、同日の配達を断念。販売センターに戻ったのは出発から約5時間後だった。地図で富山県側からたどり着ける脇道を見つけ、峰坪野には14日に2日分の新聞を届けた。

 「現実とは思えない世界だった」。配達中、稗田所長は床上浸水した家屋、路面が大きく陥没した道路、なぎ倒された電柱を何度も見かけた。販売センターには、腰まで水に漬かりながら無事に新聞を届けたり、あきらめず日中までかかって配り終えたりした配達員もいた。

 峰坪野では13日午前1時~14日午後8時ごろ停電となり、住民は懐中電灯やろうそくの明かりで不安な夜を過ごしていた。山元一豊町内会長(72)は「被害を確認したくても行けない場所が多く、全容も分からない。地元の新聞から得られる情報は重要だと実感した」と感謝した。

 15日午前7時40分ごろ、市から峰坪野に弁当や水などの支援物資が届き、住民が公民館に集まった。居合わせた稗田所長に対し、住民は「ほかの新聞がまだ届かんのに、対応してくれてありがとう」などと声を掛けた。「朝乃山の情報が知りたい」と富山新聞を手にする住民も多く見られた。

 稗田所長は「地元の情報も貴重な支援物資の一つ。住民の皆さんの声が励みになった。今後も読者の期待に応えたい」と力を込めた。

倒木などでふさがれた峰坪野に向かう市道=小矢部市峰坪野

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