火葬場の予定地だった荒れ山、子どもの声弾む憩いの場に 住民ら整備に力

階段が設置された長尾山の登山道を歩く園児ら(亀岡市篠町)

 京都府亀岡市内で管理が行き届かず荒れていた山を、住民らの手で憩いの場に再生する動きが出ている。地元の保育施設や学校の遠足先になったり散歩コースに利用されたりしており、整備に携わる関係者は「山はかつて子どもたちの遊び場でもあった。山に親しみ、関心を持ってもらいたい」と期待する。

 5月中旬、京都縦貫自動車道の篠インターチェンジ(篠町)の南側にある長尾山(標高357メートル)を、ひかり幼稚園(西つつじケ丘)の年長児52人が遠足で訪れた。園児は丸太の階段や橋が設けられた登山道を歩き、中腹の展望台で市内を一望すると「家が見えた」と歓声を上げた。

 山は市が所有し、現在は市民団体「市民の森 長尾山」が維持管理を担っている。外周4.3キロの登山道や、秋に雲海が見られるという計3カ所の展望台、山中から切り出した木で作った椅子やテーブルは全てメンバーが手がけた。軽野保会長(74)は「幼稚園児から80代の高齢者まで、どんな人でも気軽に登れる」とアピールする。

 かつてまきやマツタケを採る場で、一時期は新たな市営火葬場の建設予定地になった。市土地開発公社が1992年までに31.7ヘクタールを10億7800万円で購入したが、住民の反対や保安林指定を解除できず96年に計画は白紙になった。「他の使い道はなく塩漬け状態」(市農林振興課)になり、マツやナラ枯れが深刻になり山は荒れた。

 2007年に市が篠町自治会に委託して再生が始まり、今年4月からは独立したボランティア団体が担う。メンバーは23人で、週1、2回作業している。軽野さんは「みんな山が好きで山のために奉仕しようと活動している」と話す。

 田畑が広がる馬路町を一望できる呉弥山(標高164メートル)中腹の展望台には、2基のブランコと高さ3.5メートルの上り棒、滑車でワイヤを滑って楽しむ全長23メートルのジップラインがある。地元の池尻地区の住民有志12人が昨年作った。

 山には長年人の手が入らず、19年の台風19号で多数の倒木が発生した。撤去のために林道を整備した際、「せっかくきれいにしたのにもったいない」と、急な斜面には階段を設置して22年3月に遊歩道として開放。地元の川東保育所が散歩に使うほか、今年5月には亀岡川東学園の5年生を招いてタケノコ掘りをした。

 メンバーの中川俊和さん(70)は、山はかつて建材や燃料を得るだけでなく「木や葉で工作したり秘密基地を作ったりと、遊ぶ場所でもあった」と回想する。だが生活様式の変化で住民も立ち入らなくなり、荒れ果てて危険な場所になってしまった。中川さんは「山は危ないという意識を変え、子どもたちの思い出に残るような場所にしたい」と力を込める。

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