世界からも厳しい目が向けられている。いつまで逃げの姿勢を続けるつもりだろうか。
大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」のジャニー喜多川前社長(2019年死去)による性加害問題を巡り、国連人権理事会の作業部会が被害を訴える当事者への聞き取り調査に乗り出す。
芸能界だけでなく、政府や経営者らと面談して企業の人権意識も調べる。来年6月の人権理事会に、日本への勧告を含む報告書を提出するという。
同事務所の性加害問題を巡っては、英BBC放送が3月にドキュメンタリー番組を放送。4月には、元所属歌手の男性が記者会見し、未成年の時に性被害を受けていたと証言した。
その後も元タレントらによる生々しい告発が相次ぎ、先の国会でも議論になった。藤島ジュリー景子社長は5月、謝罪に追い込まれたが、対応は不誠実だと言わざるを得ない。
藤島氏は動画と文書を公表したのみで、問題について「知らなかった」とした。告発内容については「ジャニー喜多川に確認できない中で、容易ではない」として事実認定を避けた。
喜多川氏を巡っては、1999年に週刊誌が所属タレントの少年らに、長年わいせつ行為を行っていると報じた記事について、主要部分の真実性を認める判決が確定している。当時取締役だった藤島氏が知らなかったとは考えにくい。
十分な対策を取らず問題を放置したことで、深刻な被害が続くことになったのではないか。事務所の責任は極めて重い。
また当初は、「ヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」として、実態解明を行う第三者委員会の設置も見送っていた。
批判の高まりを受け、外部の専門家による「再発防止特別チーム」を設置したものの、所属タレントらに対する網羅的な調査はせず、被害の全容解明は行わないとしている。
性暴力は長期間わたり心身に大きな影響を与える。被害者の心理的な負担やプライバシーに配慮しつつも、告発者ら自発的な証言を中心に何が起きたのか、なぜ防げなかったのか、できる限り被害の全容を明らかにすることは経営者の責務だ。
不可解なのは、長年ジャニーズのタレントを番組に起用してきた大手テレビ局の対応である。一部を除き「推移を見守りたい」「タレントに罪はない」と傍観の姿勢に終始している。
事務所同様、嵐が過ぎるのを待っているのか。視聴者を置き去りにした忖度(そんたく)としか映らない。スポンサー企業を含め、取引先として事務所に適切な対応を強く働きかけるべきだろう。
信頼回復に向け、ジャニーズ事務所自らが真相に向き合い、社長が会見を開いて説明することが欠かせない。